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あの凶悪犯と私たちは全く違う人間だと断言できるだろうか?――加賀乙彦『悪魔のささやき』

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※注意!映画『教誨師』のネタバレがあります。

 

 

 

 

 

はじめに

映画『教誨師』を観たとき、終盤のシーンでゾッとした。女性死刑囚が花粉症のつらさについて愚痴るシーンだ。教誨師である主人公が花粉症ではないことを羨みつつも、気がついたときには手おくれになるのだと警告する。

これ、「花粉症」を「死刑囚になる」に置き換えてみると、物凄く恐ろしい。犯罪なんて無縁に生きているつもりでも、気がつけば闇の世界につながる陥穽にはまり込んでしまうかもしれない。 

 

 

普通の人が凶悪犯に変わる

犯罪者になることは、決して他人事ではない。加賀乙彦著『悪魔のささやき』は、私たちに警鐘を鳴らしてくれる一冊だ。

日本中を震え上がらせてきた事件なんて、列挙にいとまがない。ニュースを見て「怖いなぁ」と思うことはあっても、身近に感じることは少ないと思う。凶悪犯は悪になるべくして生まれた人間で、社会のルールを守って生きている私たちには何の関係もない。そんな風に私たちは考えがちだ。

ぜひ、本書を読んでみてほしい。いかに普通の人が凶悪犯になってしまったかの事例が紹介されている。ある日突然、前触れもなしに、彼らは凶悪犯になった。

 

横須賀線電車爆破事件という1968年に起こった事件がある。この事件で犯人として捕まった純多摩良樹は人を殺そうとしてこの事件を起こしたのではない。元恋人に対して、ちょっとした嫌がらせをしようとして車両内に爆発物を置いたのだ。しかし純多摩の思惑に反して死者が出てしまい、彼は死刑囚となり、1975年に刑が執行された。

ja.wikipedia.org

 

普通の人が悪魔にささやかれることで、自分でも思いもよらなかった行為に及ぶ。犯罪だけでなく、自殺もそうだ。

悪魔のささやきとはどういうものなのか、どんな状況下でささやかれるのか、何より悪魔のささやきに私たちはどう対処すべきかを教えてくれる良書だ。

 

 

 

さいごに

映画や小説の世界でも、善良に暮らしていた主人公がまさかの転落を遂げる作品は多いよなあ、とふと思う。

ささいなきっかけで私たちはいつでも転落してしまう可能性に取り囲まれている。そういうことを我が身に置き換えて考えることができるから、やっぱり映画や小説ってすごいし大切だと思う。後味が悪い結末でも、私たちの生き方の糧になってくれる。やっぱり物語ってすごい。

「悪魔のささやき」に対抗する私なりのツールが物語なのだ。

 

 

『悪魔のささやき』で紹介された死刑囚がモチーフになっている加賀氏の小説。

 

 

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