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『ジョジョ・ラビット』ネタバレ感想

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※注意!『ジョジョ・ラビット』のネタバレがあります。

 

 

『ジョジョ・ラビット』を今さら観た。良かった!めちゃくちゃ良かった!もっと早く観るべきだった!

そういうわけで、私は傑作に出会えた喜びで少々興奮している。以下の文章も、興奮が抜けきっていないが、どうかご容赦を。

 

 

 

 

ジョジョが可愛すぎるんじゃーーーー!!!

あらすじは以下の通り。

舞台は、第二次世界大戦下のドイツ。心優しい10歳の少年ジョジョ(ローマン・グリフィン・デイビス)は、空想上の友だちのアドルフ・ヒトラー(タイカ・ワイティティ)の助けを借りながら、青少年集団ヒトラーユーゲントで立派な兵士になろうと奮闘していた。
しかし、ジョジョは訓練でウサギを殺すことができず、教官から”ジョジョ・ラビット”という不名誉なあだ名をつけられ、仲間たちからもからかわれてしまう。
そんなある日、母親(スカーレット・ヨハンソン)とふたりで暮らしていたジョジョは、家の片隅に隠された小さな部屋で、ユダヤ人の少女(トーマサイン・マッケンジー)がこっそりと匿われていることに気付く。ジョジョの頼りとなるのは、ちょっぴり皮肉屋で口うるさいアドルフだけ…。臆病なジョジョの生活は一体どうなってしまうのか!?

 

引用元:ジョジョ・ラビット - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画


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とにかく冒頭が凄い。

主人公ジョジョはヒトラーを熱心に信奉する純真な少年。ヒトラーユーゲントの訓練合宿に出かける直前、彼は緊張した面持ちで鏡の中の自分と向き合う。そんなジョジョを叱咤するのが彼のイマジナリー・フレンドであるヒトラーだ。ヒトラーと共に「ハイル・ヒトラー」の練習をするうちに、ジョジョの心は高揚していく。ここのシーンが(ヒトラーが出ているというのに)楽しいったらない。緊張でガチガチだったジョジョがあっという間にテンションMAXとなり、家を飛び出していく。

「ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラー!ハイル・ヒトラーーーーーーー!!!!

うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑↑!!!!!!!!!!

 

そこに重なるように流れるビートルズの「抱きしめたい」ドイツ語バージョン。ノリノリで街道を駆けるジョジョとヒトラーに熱狂する実際のドイツ国民の映像が交互に画面に映しだされていく。

何ということだろう。実際のナチスドイツの映像を見ているのに、楽しくなってしまうなんて。

 意を決したジョジョが玄関から飛び出すと、耳慣れたロックチューンが流れ出す。ザ・ビートルズ初期の名曲「抱きしめたい」のドイツ語版だ。曲に合わせてインサートされるヒトラーに熱狂する当時のドイツ人たちが、まるでビートルズに熱狂するビートルマニアのように見えるのが面白い。

 

引用元:タイカ・ワイティティが送った少年へのエール 『ジョジョ・ラビット』の音楽|WOWOW

 

なるほど、こう言われてみると納得。映像の中でヒトラーに熱狂する人たちの姿を私は直接見たことがある。

コンサートに行ったときの光景だ。6周年から解散までV6のコンサートは欠かさず行っていたし、BTSのコンサートにも何回か行った。このときに、同じ熱狂を何度も目にした。

特に感極まって泣いている女性の姿は見覚えがありすぎるというか何というか。V6の10周年の握手会に参加したとき、会場からこんな感じで出てくる女の子を見たぞ。ちなみに私は間近で見る岡田くんの美しさに魂を持って行かれて、帰り道はずっとぼけーっとしていた。


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この頃の岡田くんを間近で見られたという喜び。

 

もちろん、私だって熱狂する観客の一人であったわけで、映像の中のドイツ国民にしっかり感情移入してしまった。彼らと私の違いなんて、それぞれの信奉する対象が現在の世界において「悪の存在」と見られているか、「良い存在」と見られているかぐらいしかない。

 

そんな感じでうっかり楽しくなる上に、はしゃぎ回るジョジョがもう可愛いったらない。ナチスへの忠誠心は強いのに、気持ちばかりが先走りして、体力や運動神経がついて行かないところも可愛い。訓練中、皆で走っているときにへばってしまうところなんて愛おしさが溢れてしまう。「トホホ」と言わんばかりの顔で息を切らせているんですよ、ああもう可愛い!お年玉あげたいし、ファミレスに連れて行って好きなもの食べさせてあげたい。

とにかくもうOPの時点で、この映画の魅力にノックアウトされてしまった。

 

 

少年の成長譚

そんなおバカで純真で超可愛いジョジョがある日突然、自宅でひっそりと匿われているユダヤ人の少女エルサと出会う。

さて、この映画は反戦、反人種差別という大きなテーマがあるが、同時にジョジョの成長という要素も無視できない。エルサとの出会いこそが、ジョジョにとって成長への始まりだった。

 

ライムスター宇多丸さんの『ジョジョ・ラビット』評で、リスナーからの意見として以下のものが挙げられている。

「少年の成長や家族の愛を描くのに、あるいは反戦や反ヘイトのメッセージを描くのに、なぜわざわざナチやホロコーストを持ち出すのか?」

 

引用元:TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~

それに対し、宇多丸さんはこのように述べる。

なので、ここはだから先ほどのメールにもあった通り、そこの是非はちょっと置いておいても、もちろん第二次大戦下のナチスを題材にはしているんだけども、要はその、「ヘイトや偏見を内面化してしまった人が、他者を知ることでそれを乗り越えていく」という、まあ当然、現在の社会、世界に通じる普遍的なメッセージ、っていうものを含む作品で。

 

引用元:TBSラジオ FM90.5 + AM954~何かが始まる音がする~

 

誰でも子供の頃は自分の視界に入るものと自分が信じるものだけが世界のすべてだ。ジョジョはたまたま、それがナチス政権下のドイツだった。ヒトラーは絶対的なリーダーだし、ユダヤ人は絶対的な悪というのが、ジョジョの世界観。序盤の訓練合宿で、ジョジョはユダヤ人が如何に怪物的な存在かを学ぶ。実際のユダヤ人を見たことがないから(というかジョジョは、ドイツ人とユダヤ人を見分けることができない)、恐れはひとつずつ確実に積み上がっていく。

 

そんな硬直したジョジョの世界に現れた異質な存在がエルサだ。エルサと対話を重ねていくうちに、ジョジョは彼女を通じてユダヤ人が自分たちと変わりのない存在だと知っていく。

しかしまあ、この対話も面白い。エルサの方がジョジョよりかなり年上なこともあって、ジョジョは完全に手玉に取られてしまう。なけなしの勇気を揺るってエルサに立ち向かうジョジョが、あっさりと武器を取り上げられたり言いくるめられたりするのが、またおバカ可愛い。余裕のあるエルサに対し、歯が立たないヘタレなジョジョ。だが、いつしかジョジョはエルサに恋するようになる。

 

一面的な世界に暮らしていた人間が異質な存在=他者と出会うことで変わっていくのが、成長譚の醍醐味だと私は思う。ナチスドイツで暮らす愛国少年ジョジョにとって、エルサはこれ以上ない他者である。エルサと出会い、対話を重ねたことで、ジョジョの一面的な世界は変わっていく。

最初はユダヤ人を悪の怪物だと認識していたジョジョが、後半部分で「彼女(エルサ)は悪い人じゃない」と言うようになる。言葉自体もだが、それを言った相手のことを思うと、ジョジョの世界観が変わり始めたのを感じさせられた。

 

 

信じていた世界が崩壊するとき

自分語りになって恐縮なのだが、私も幼い頃はジョジョに負けず劣らずおバカで考えなしの子供だった。あの頃の私は大人の言うことは絶対に正しいと信じていた。もちろん、彼らの言うことに反感を覚えたり、不満を抱くことはしょっちゅうある。だが、心の底では「でも間違っているのは自分。それに反感を覚えるのは、自分が未熟な子供だから」という考えが常にあった。

何歳の頃だったか、「もしかして、大人の言うことは必ずしも正しいとは限らないのではないか」と感じるようになった。このときの絶望感は今でも覚えている。だったら、私はこれから何を信じて、何に従って生きていけばいいのか。それらがまったくわからなくなったのだ。

これを機に私は大人になった……とは言い切れないのが情けないが(今でも年齢はともかく精神性は相当にガキなのである)、今に至るまでの紆余曲折の始まりだったように思う。幼い私の世界が崩れた瞬間だ。

 

後半、連合軍がジョジョの住む街に侵攻し、激しい市街戦が始まる。崩れゆく街の中をふらふら歩くジョジョを見ながら、私はあの頃の自分を思い出していた。いずれ勝つと信じていたドイツ軍は風前の灯火で、あれほど信じていたヒトラーも知らぬ間に自殺していたと聞かされる。物理的にも精神的にも、純粋にナチスを信奉していたジョジョの世界は崩れていく。

 

信じていた世界の崩壊という目に遭った幼い頃の私だが、終戦を迎えた(特に敗戦国の)人々にとっての世界の崩壊の激しさは私のそれと比べ物にならないはずだ。

少年時代に戦争を経験した加賀乙彦さんは著書『悪魔のささやき』で、終戦直後に感じたことを書いている。

 三歳のときに満州事変が勃発し、以来、川が切れ目なく続き広さを増すように、戦争は私の十六年の人生を彩っていました。(中略)家でも学校でも、勉強も遊びもすべてが戦争のため、勝つためにあるとされてきたんです。戦争中の大人たちの勇ましい発言、すこしでも疑いを抱くと罰してきた強圧、日本は必ず勝つ、しかし勝つためにはおまえたちは喜んで命を投げ出せという教育……あれはいったいなんだったんだ!? どうして誰も責任をとろうとしないんだ!?

 孫悟空の頭にはめこまれた金の箍さながら、取ろうとしても取れない締めつけ具の役目を果たしていた戦争というものが不意に取りのぞかれ、開放感と安堵を覚える一方で、日本社会のあまりの豹変ぶりにまず唖然呆然でした。次にだましやがったなと思い、やがて大人たちの言うことを真に受けていた自分自身がおろかだったと結論づけた。あのとき抱いた絶望感、人間に対する不信の念は、ものすごく強いものがあります。 

 

引用元:加賀乙彦著『悪魔のささやき』、集英社

nhhntrdr.hatenablog.com

 

自分の国が負けた瞬間、信じていたものが崩れ、新しい秩序が敷かれる。これを受け入れるのが容易ならざるものだということは、想像に難くない。

ドイツの敗戦後、ジョジョが最初にエルサに取った態度に、一回目の観賞時は「おいおい。ジョジョよ、君は何をやってるんだ!」と怒りそうになったが、二度目に見たときは違う感情を抱いた。このときのジョジョは、崩れる世界に苦しんでいたのだ。自分が慣れ親しんだ世界は瓦礫となったが、それでもすがりつかずにはいられない。だから、彼は結果的にエルサに酷いことをした。

しかし、ジョジョはエゴイスティックな自分を捨て、エルサのために動き出す。母親から愛され、無償の庇護を受けていた幼いジョジョは、他者のためにできることをやる大人への一歩を踏み出した。そこで流れるエンディング曲が、デヴィッド・ボウイの「ヒーローズ」ドイツ語版だ。

 

 

ジョジョの少年時代は終わった

作中、ジョジョはイマジナリー・フレンドのヒトラーから「敵の前に立ちはだかり、永遠に人々の記憶に刻まれる祖国の英雄になれ」と迫られる。だが、最終的にジョジョはナチス的な英雄ではなく、ボウイの歌の中のようなヒーローへと変じた。

ちなみに「ヒーローズ」が戦後ドイツとどう関わっているかについて、もしご存じない方がいたら、ぜひ「デヴィッド・ボウイ ベルリンの壁」で検索して欲しい。いかに「ヒーローズ」が『ジョジョ・ラビット』のエンディングにふさわしい歌なのかをわかっていただけると思う。

realsound.jp

 

ラスト近くは序盤と対比になるシーンが多い。二度目に観たとき、序盤にここまで伏線が仕込まれていたのかと驚き、嬉しくなった。序盤で10歳だったジョジョが、ラストでは10歳半となっている。たった半年で、どれほどの変化が起こったか。序盤と終盤の対比だけでもよく伝わってくる。

そして、エンディング直前のジョジョの顔つきは驚嘆に値する。オープニングについて述べている部分で私は何度も彼のことを可愛いと言ったし、お年玉をあげたいとか、ファミレスで奢ってあげたいとも言ったが、エンディングの彼は最早お年玉をあげる対象ではない。対等に接し、敬うべき勇敢な少年だ。

 

深みを得たジョジョの顔つきを見ながら、私は何とも言えない気持ちになった。あのおバカで可愛いジョジョがいなくなった寂しさ、それ以上にジョジョが成長したことに対する喜び。それらがぐちゃぐちゃに混ざり合って、目頭が熱くなってしまったのだった。

ジョジョとエルサには、まだまだ厳しい現実が待っているわけだが(祖国が分裂するって、改めて考えるとキツいわな…)、どうか二人ともしたたかに生き抜いて欲しいし、幸せになって欲しい。まあ、この二人なら大丈夫だろう!私は信じているぞ!

 

 

しかし、ジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィスくんのすごさには脱帽だ。映画初出演というのが、さらに驚き。11歳で、初出演で、ここまでジョジョの変化を表現できるなんて!

数年後、別の映画を見ているときに成長したローマンくんに出会えると良いなと思う。そして、「え、この凜々しい青年が『ジョジョ・ラビット』のジョジョ!?こんなに大きくなって!」と驚きたい。


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あー可愛い。天使が二人もいる。あんなこと言ったが、やっぱりお年玉あげたい。本文中では言及しきれなかったけど、ジョジョの友人ヨーキーも可愛かった!

 

 

 

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