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『Free!-Eternal Summer-』第6話でのBGMの使い方が神がかっているんじゃないかと思った話(ネタバレあり)

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 ※注意!『Free!』および『Free!-Eternal Summer-』のネタバレがあります。

 

 

 

 

 

 

TVアニメシリーズの『Free!-Eternal Summer-』第6話についてくっちゃべってみたい。リアルタイムで見ていた頃は今のようにブログを開設していなかったので、思いの丈をぶちまけることができなかったよなぁと、最近になってふと思い出したのだ。

 

 

 

『Free!』第1期のざっくりとしたあらすじ

『Free!-Eternal Summer-』とはTVアニメ『Free!』の続編。『Free!』とは、水泳部の男子高校生による青春と友情(と筋肉)の物語である。

主人公は天才的な水泳選手である七瀬遙。非常にクールというかダウナーというか、独特なテンションの少年で、周りに振り回されずマイペースに生きている。どれぐらいマイペースかというと、大好きな水泳を中心に生きすぎているぐらいだ。とにかく彼は水があれば泳ごうとする。常に服の下には水着を着込み、飛び込めそうな水があればその場で服を脱いでダイビングしようとする。自宅でも水着を着用して風呂に入り、キッチンでは水着にエプロンという珍妙な格好で料理をする始末(遙は一人暮らしなのである)。

そんな遙は、とある出来事をきっかけに競泳からは足を洗っていたのだが、友人たちに巻き込まれるように岩鳶高校水泳部の設立に関わる羽目になる。タイムとか勝ち負けはどうでも良く、ただ泳いでいたいと言っていた彼だったが、水泳部が正式な部活として認可してもらうためという理由のもと、あれよあれよという間に水泳大会へ出場することになる。

 

フリーという種目にこだわり「俺はフリーしか泳がない」と事あるごとに遙は言う。あくまでも彼は自分が好きなように泳ぐことを求め、誰かと共にゴールを目指すことには興味を示さない。

そんな遙が水泳部での活動を通じ、仲間たちと泳ぐことの喜びに目覚めるのが『Free!』のストーリーだ。

 

 

真琴が主人公の第6話(第2期)

第2期である『Free!-Eternal Summer-』は翌年の遙たちを描いたシリーズだ。遙と彼の幼なじみであり水泳部仲間でもある橘真琴は高校3年生となり、卒業後の進路を意識せざるを得ないような状況となっている。

かつて同じスイミングスクールで切磋琢磨した親友・松岡凜は卒業後も水泳の道を歩むと決めている一方、遙と真琴は凜のようにはっきりと競泳の世界への意思を示そうとしない。

 

第6話は真琴が主人公のエピソードである。にもかかわらず、この話の中では真琴の心境が語られるシーンが非常に少ないため、彼の心を推測するしかない。あくまでも私個人としては以下のように捉えている。

真琴にとって遙は親友であると同時に、自分では決して敵うことのないレベルの天才スイマーだ。そんな遙に憧れ、チームメイトとして支えてきた真琴の中に、もうひとつの感情が生まれる。凜のように遙としのぎを削るライバルになりたい。だが、自分は競泳の世界で遙と競り合っていけるだろうか。

そんな中、水泳の県大会が迫る。真琴は遙と同じフリーでの出場を決め*1、自分が彼のライバルに足る選手であるかどうかを見極めようとする。

 

実際に遙と同じ舞台で泳いだものの、真琴は力及ばず。最後はスタミナが切れ減速していく中、遙が先へ先へと泳いでいく姿を見送るしかできなかった。

この出来事がきっかけとなったのだろう。真琴は水泳選手以外の生き方を模索する姿を見せ始める。

 

 

水泳選手としての死

そういうわけで、第6話は橘真琴が水泳選手としての見切りをつけるエピソードだ。過激な言い方をさせていただくならば、「水泳選手・橘真琴の死」を描いた話だ。少なくとも、私はそう認識している。

水泳選手・真琴が象徴的に死ぬわけなのだから、絶望的な展開だと言える。なら、ここで流れるBGMは悲壮感溢れるものなのだろうか。いや、違う。

 

真琴が遙のライバルにはなれないと思い知らされるシーンで流れるのは、「My future, your future」という曲。

これが聴いている者を包み込むような優しさに満ちた曲なのだ。穏やかな海の中を揺蕩っているような気持ちになる。もちろん、この曲が包み込んでいるのは今まさに絶望のただ中にいるであろう真琴だ。聴いていると、夢破れ、遙のいる世界へは行けないと知った彼の苦痛を少しでもやわらげようとしてくれているかのように思えてくる。

My future, your future

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死というのは再生への道筋の途中にある。水泳選手としての夢は潰えたが、その後、真琴は新たな夢を見つけることになる。水泳選手という夢に見切りをつけたからこそ見つけた夢だ。そういった、いまの時点ではまだ見えない希望も、この曲は示唆しているようにさえ私は感じる。

ここで流れたのが「真琴が可哀想だろう。さあ泣け」と言わんばかりのBGMでなくて良かった。それはそれで「まこちゃん、可哀想」という風に感情移入しながら観たのだろうが、「My future, your future」ほど私の心には残らなかっただろう。

 

同じ理由で第10話で流れた「My Best Team」も大好きな一曲だ。

凜の親友でチームメイトの山崎宗介は肩の故障のため、競泳の道を断たれた。そんな彼が最後の舞台として選んだのが、地方大会のメドレーリレーだ。凜たち最高の仲間と共に泳ぎたい。そんな思いで彼は限界に達した肩を圧してリレーに挑む。ここでは宗介の決死の覚悟だけでなく、彼の思いに応えようとする凜たちチームメイトや対戦相手である遙たちの心意気にも胸打たれる場面だ。

凜たち鮫柄学園チームと遙たち岩鳶高校チームが競うメドレーリレーの最中に「My Best Team」が流れる。

My best team

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この曲は熱さも孕んでいるのだが、同時に宗介を包み込むような慈しみの情も感じさせる。「鮫柄が勝つか、岩鳶が勝つか」という緊張感を煽るのではなく、あくまでも宗介が最高の仲間と共に最後まで泳ぎ切れるように、背中を押すかのような曲調が非常に良い。

 

 

これらの箇所に限らず、『Free!』のBGMは登場人物に寄り添ってくれるような曲調のものが多かったなぁと思う。無駄に感情を煽り立てるのではなく、青春のまっただ中にいる遙たちを後ろから応援してくれるようなスタンスの楽曲が揃っていたな、とふと思いを馳せたくなったのだった。

 

 

 

余談

個人的に『Free!』は男臭さのない作品だと思う。スポーツを題材にした物語ではあるが、スポ根を期待して観た人はがっかりしてしまうのではないだろうか。

例えば第一期では遙たち岩鳶高校水泳部が合宿するエピソードがあるのだが、ここでスポットが当たるのは厳しい特訓ではない。トラブルに遭ったことで仲間たちの絆が深まっていく経緯だ。一応、特訓している光景もあるにはあるのだが、特訓後に遙たちがバーベキューを楽しんでいるシーンとそこまで尺は変わらないように思う。つまり、このエピソードにおいて特訓そのものの重要度はバーベキューと同じレベルなのだ。

CDドラマでも、遙たちがケーキバイキングに行く話や、真琴と凜が猫とじゃれる話など、汗臭さなど一切ない牧歌的なエピソードが揃っている。

 

言ってみれば、遙たち男性キャラクターはイケメンの姿をした女子高生だ。テイストとしては同じ京都アニメーション制作の『けいおん!』に近いと思う。平沢唯たちがイケメンになり、軽音楽ではなく水泳をするようになった話が『Free!』なのだ(ファンの方、すみません、ごめんなさい、怒らないで)。

そんなキャラクターの中でも真琴は特に男臭さに欠けている。体格こそメインキャラクターの中でもトップクラスに大きくがっしりしているが、性格は優しいし、笑顔を絶やさないような男の子だ。彼が怒ったり、闘争心を剥き出しにすることは滅多にない。しかもスイーツが好きで、怖いものが苦手と来ている。

 

第6話の終盤で仲間から「何故フリーに出場したのか」と問われ、真琴は「凛が羨ましかった」と語る。別にライバルにならなくとも、遙にとって真琴は幼馴染でありサポーターでもあるという重要な存在だ。だが、真琴はそれでもなお遙の好敵手であることを求め、食らいつこうとした。

第6話は、男臭さのない真琴がここに来て、強烈なマッチョイズムを垣間見せた貴重なエピソードでもあるのではないかと考えたりした。

 

だから、遙に敗北して悔しいという気持ちはあるだろうと思うのだが、同時に幼い頃から憧れ続けた「水の中では最強のハルちゃん」が最強のままで嬉しいという感情も覗かせていたりして。こういうアンビバレントな感情が入り乱れている瞬間って、(渦中の本人は大変なんだろうけれど)興味深いなぁと改めて思う。その人に深みが生じるというか何というか。

そんなアンビバレントなシーンだからこそ、悲劇的な曲調のものより「My future, your future」の方が何百倍、何千倍にもしっくり来るのだろう。

 

 

 

初めて『Free!』シリーズを取り上げるのにいきなり第2期の話ですみません。ただ単に、私が真琴贔屓だからというのが理由です。

 

 

第6話も第10話も、夢を絶たれた人間の物語だ。遙や凜のようなトップ選手の葛藤だけでなく、いま一歩及ばなかった選手たちの生き方にも焦点を当ててくれたところも、第2期がとりわけ好きだった理由かもしれない。

 

 

 

 

 

*1:真琴は本来、背泳ぎを専門としている。