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映画や本の感想など。ネタバレ全開なので、ご注意ください。

我が家にある『戦場のメリークリスマス――シネマファイル』についての話

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以前にも記事で書いた通り、現在『戦場のメリークリスマス』が全国上映中だ。

 

上映館に行けば、ポスターやTシャツ、トートバッグなどのグッズも買えるし、新宿武蔵野館では関連資料やボードの展示も行われている。戦メリコラボ実施中のレストランへ行けば、コラボメニューが楽しめるし、とにかく今は戦メリが祭りだ。1983年の公開当時の熱気を知らず、リアルタイム勢を羨むしかなかった身としては、今のお祭り状態が非常に有り難いし、嬉しいったらない。 

【2023/6/15追記】

現在、2023年1月からの大規模上映は終了。6月現在、一部映画館にて坂本龍一さん追悼上映という形で上映中。詳しくは上に貼った公式Twitterアカウント等でご確認ください。

【2023/9/2追記】

公式サイトによると、上映はほぼ終了した模様。 

 

 

そういうわけで最近、家にある関連書籍を引っ張り出して復習がてら読み返したりしているところだ。

今回のタイトルにある『戦場のメリークリスマス―シネマファイル』(以下『シネマファイル』)は、1983年に発売されたものらしい。第1刷発行の日付が1983年5月1日。ちなみに『戦メリ』の日本公開日は同年5月28日とのことだ。まさにリアルタイムの熱気が詰まったような本なのだろうと思う。

 

私が知っている限りでは現在、新刊で手に入る『戦メリ』関連本と言えば『『戦場のメリークリスマス』知られざる真実』、『大島渚全映画秘蔵資料集成』、『映画監督 大島渚の戦い 「戦場のメリークリスマス」への軌跡』あたりだろうか(他にもあれば、ぜひ教えてください)。どの書籍も制作時から長い時間が経ったからこそ書ける当時の秘話などが詳細に記述されており、非常に面白い。(『「戦場のメリークリスマス」への軌跡』は撮影スタッフの行方不明事件についても取り上げている。ある意味『戦メリ』の暗部とも言えるこの事件。現在、ここまで詳細について知ることのできる書籍という意味では貴重な一作だと思う。作品ファンとしては相当に複雑な気持ちになる事件であるため、向き合うには精神力が必要になるけれど)。

 

 

 

 

『シネマファイル』は上記の書籍とは異なり、出演者インタビューなどがメインとなっている。まさに上映当時に刊行された書籍ならでは。ビートたけしと坂本龍一の対談、通訳が語るデヴィッド・ボウイについて、ビートたけしによるロケ地・ラロトンガ島でのドタバタ等々(坂本さんが鰻丼を食べられなくて泣いた話、ヤジマ役本間さんのドジっ子エピソード、たけしさんとカネモト役ジョニー大倉さんの仲良しエピソードなど、わちゃわちゃ感がうかがえて、面白かった)。

出演者の表記も、当時ならでは。ビートたけしは「タケちゃんマン」、坂本龍一は「坂本クン」となっている。恐らく、当時『戦メリ』に熱狂していた若い女性、いわゆる『戦メリ』少女に向けた書籍であることは想像に難くない。

ヨノイファンとしては、断髪直前、断髪直後の坂本龍一さんの写真が載ってあるのが美味しかったです。

 

 

さて、この『シネマファイル』が私の手元にあるのは、私自身が購入したからではない。夫が中古書店で何とはなしに買ったものを、私が私物化したという酷い経緯を経ている。

110円…。

 

前の持ち主(以降、Aさんとする)は作品公開時の熱心なファンだったようで、要所要所に赤線が引かれてあったり、メモが書き付けられている。本来、私は中古本に書き込みがあると残念に思うタイプなのだが、この本の書き込みに関しては逆に当時の香りが漂ってくる気がして、オッケーオッケーといった感じである。

線を引いてある箇所から見るに、Aさんはヨノイ及び坂本龍一のファンであるらしい。次いでセリアズ及びデヴィッド・ボウイが好きであるらしい。とにかくヨノイ、セリアズ、坂本龍一、デヴィッド・ボウイへの評が書かれている部分には大体線が引かれている。

きっとAさんも『戦メリ』少女の一人だったのだろうな、などと想像が膨らんでいく。中にはテレビ雑誌の切り抜きらしきものも挟まっている。『戦メリ』のテレビ放映についての記事らしい。

『戦メリ』が地上波で放送されていたこともあるとか、今では想像がつかないんですけど。

 

ちなみにこの記事を裏返してみると、懸賞広告が載っていたりする。

昭和59年。劇場公開の翌年にはテレビ放映されていたのか。VHSなりベータなりのビデオテープレコーダーは既に世に出た後の時代。Aさんはこれを録画していたりしたのかしらん。

 

何らかの雑誌の切り抜き。

Aさん、さすがです。注釈助かります。

 

カセットブック『Avec Piano』のチラシも挟まっている。

間に思索社の読者カードが挟まっていたので、Aさんは『Avec Piano』も購入していたのかもしれない。羨ましい。ちなみに収録曲自体ならアルバム「コーダ」で聴ける。Spotifyにもありますよ。良い時代だ…。

open.spotify.com



その他、補足情報が書かれていたりするので、割と助かったりもする。ラロトンガでのボウイ(すみません、ボウイさんって呼び方がなんだかしっくり来ないので、敬称略でいかせてください)のエピソードを紹介するコーナーでは、語り手としてディディ・ディクソンという方の名が記載されているのだが、横にAさんが「撮影部通訳」と書いてくれている。ありがとうございます、Aさん。こないだ上映に行ったとき、スタッフロールに「Interpreter DIDI DICKSON」の文字を見つけて、心の中で「オーイエー、オーイエー!撮影部通訳のディディ・ディクソンさんじゃないか!」と、意味もなく興奮しました。

補足情報だけでなく、誤情報が修正されていたりもする。ヤジマが自決する直前のセリフが引用されている部分、「こいつ」と書かれている箇所がAさんによって赤く塗りつぶされ、横に「あの男」と書かれている。確かに本編中の該当部分、ヤジマはセリアズのことを「こいつ」ではなく「あの男」と呼んでいるので、Aさんが正しい。

 

 

 

先日、夫に『シネマファイル』を私物化していたことを白状した際、「前の人は、こんなに熱心なファンだったみたいよ」と中の書き込みを見せてみた。すると、Aさんのメモ書きを見た夫が「この人、高齢の方なんじゃないか」と言った。

言われてみれば、「されてゐた」といった風に旧仮名遣いで書かれている。てっきり私は戦メリ少女世代の方だと思っていたので、指摘されるまで気づかなかった。そういえばAさんの字、戦メリ少女が使っていたという「変体少女文字」ではないよなぁ。まあ、皆が皆同じ字体を使っているとも限らないけれど。

 

「もしかしたら前の持ち主が亡くなって、遺族の人が中古書店に売ったのかもね」という夫の言葉を聞いて、納得のいく気がした。今まで、ここまで熱心なファンだったAさんが、この本を売りに出したのが謎だったのだ。『戦メリ』に飽きちゃったのかな、などと思っていたりしたのだが、もしかしたら最後の最後まで『戦メリ』を愛していた方だったのかもしれない。

 

 

もちろん、今となってはAさんがどんな方だったのか知る術はない。もともと私が想像していた通り、Aさんは今もご存命で、ただ『戦メリ』熱が冷めただけという可能性は充分にある。ただ、もしもAさんが『戦メリ』を愛し続けて天寿を全うされた方だったとしたら、今の『戦メリ』の盛り上がりを見てもらえなかったのは残念で仕方ない。

ということで、先月の20、21日と映画館に行く際に、私はこの『シネマファイル』を荷物の中に忍ばせていった。Aさんが『戦メリ』祭りの空気を少しでも楽しんでくれたならいいなあと思う。

 

 

現在、『シネマファイル』はトートバッグの中に入れて保管している。本棚に入れるよりも、こっちのほうが良いような気がしたのだ。

来場者特典のポストカードとフライヤーも入れておいた。あと『ラストエンペラー』の来場者特典ポストカードも追加で入れておく。坂本龍一ファンのようだから、甘粕さんのポストカードを喜んでくれるんじゃないかと思ったので。

 

とりあえす、Aさんにひと言伝えたい。私もあなたと同じくヨノイが好きですよ!(もちろん、セリアズも好きですよ!あと、ハラとロレンスも!)

 

 

 

※戦メリ感想記事リンク集

nhhntrdr.hatenablog.com