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『ライフイズストレンジ』(LISシリーズ第一作目)ネタバレ感想②(エピソード3、4)

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※注意!『ライフイズストレンジ』の(重要な部分を含め)ネタバレがあります。

 

前回の記事はこちら。

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

各エピソードの感想

エピソード3「カオス」

マックスが腹を据えたことで、スリルの度合いも格段に高まってくる。エピソード1、2でも、怪しい場所を探ったりするくだりはあるのだが、エピソード3、4での探索における緊迫感はプレイしていてゾクゾクする。何しろ、学校や街という自分の生活圏の暗部を探るパートなのだ。知らずにいれば今後も平穏に暮らせるけれど、敢えてリスクを負って暴こうとする。だからこそ面白く、そして怖い。

最初はごく普通の生活から始まって、気がつくととんでもなくドラマチックな事件のまっただ中にいる。これこそ『ライフイズストレンジ』シリーズの醍醐味だなぁと思う。

 

ということで、この辺からマックスとクロエのバディものっぽくなってくる(エピソード2は、まだ二人で何となくつるんでいるだけの感じ)。夜の学校に忍び込み、鍵のかかった校長室の扉を即席の爆弾でこじ開けたりと、スパイかと思うほどの活躍を見せてくれる。

 

校長室潜入を皮切りに、マックスたちはブラックウェルとアルカディア・ベイで起きている事件の鍵を握っていそうな人物のテリトリーに忍び込んでは情報を探る。ブラックウェルの警備員かつクロエの継父デイビッド、レイチェルと関わりがあったらしき薬の売人フランク…。校長→デイビッド→フランクと探っていくうちに、クロエの知らないレイチェルの姿が浮かび上がってくる。レイチェルはフランクと恋人関係にあったのだ。レイチェルの秘密を知ったクロエは裏切られたとばかりに、怒りを露わにする。

 

この部分のマックスの日記には、クロエに対する罪悪感が綴られている。自分もかつて、レイチェルのようにクロエのそばから離れていった。

私も一度クロエのそばからいなくなってしまったけど、またこうして戻ってきた。なんのために…?クロエをもっと悲しませるため?この力を使って、もっと子どものころまで時間を戻せたらいいのに。

 

ひととおりプレイした上で改めてプレイすると、マックスの罪悪感というのがそこかしこで顔を出していることに驚く。例えば、エピソード2でケイトの自殺騒動があったが、自殺になったルートはともかく、ケイトを救出できたルートでも、マックスの日記にはケイトに対する申し訳なさが書かれているのだ。そもそも、マックス的には自殺騒動前、ケイトからどう対処すべきか相談されたときに、十分に力になれなかったことが気になっているらしい。

これはとても私1人の手には負えないことだよ…やっぱり、私にスーパーヒーローのまねはムリだった…

ケイトにアドバイスはしたものの、自分の身に危険が及びそうになった瞬間、及び腰になってしまった。苦しんでいる友だちに最後まで寄り添うことができなかった、というシチュエーションは、引っ越し前のクロエとの出来事にも通じるものがある。

 

マックスはクロエへの罪悪感に苛まれる。そんな矢先、クロエの実父ウィリアムが死ぬ直前の時間へとタイムリープしてしまう。マックスや母ジョイス、レイチェルに裏切られ続けたと言うクロエ。彼女の「クソまみれ」の人生の始まりはウィリアムの死からだったという。となると、過去に戻った先でマックスが考えるのは、ウィリアムの死を阻止できないかということだ。試行錯誤を繰り返し、マックスは何とかウィリアムの事故死を防ぐことに成功する。

 

だが、それによって過去の出来事は変化する。もとの時間に戻ってきたマックスを取り囲む環境は、以前と全く異なっていた。不安になったマックスは矢も楯もたまらずクロエのもとを訪ねる。そこでマックスは自分が取った行動が招いた結果を知ってしまうのだった。

 

ウィリアムが生存する世界線では、クロエが交通事故により脊椎が損傷し、首から下が動かないという状況に陥っていた。自分のせいで、クロエが苦しんでいる。マックスのクロエに対する罪悪感が、さらに積み重なっていくラストとなっているように思う。

 

エピソード4「暗室」

自分のせいで、クロエは身体の自由を失った。さらに、クロエの両親は娘の生命維持のため、終始金策に駆られているという状況。クロエ一家を救うため、ウィリアムの死を阻止したはずが、逆にクロエたちを逆境に立たせてしまった。さらには体の自由がきかなくなったクロエから、自殺の幇助まで頼まれてしまう。この悲しい世界線からクロエを救うためにマックスが取った行為とは、再び過去に戻り、ウィリアムが事故死する世界線へと戻すことだった。

 

エピソード3では車で出かけることを断念したウィリアムを見送りながら、歓喜のあまりクロエに抱きついていたマックスが、今回は出かけるウィリアムの背中を見ることもできず、顔を覆う。

 

ここでもマックスの罪悪感がクローズアップされる。自分のせいでクロエを不幸にしたこと。クロエのため、ウィリアムを見殺しにしたこと。

何もマックスは、災いを起こそうとしたわけではない。むしろ災いを起こさないように、起こさないようにと努力していたにもかかわらず、誰かが何らかの形で不幸になる。超自然的な力があったからといって、万能な人間になれるわけではない。何かを得るため、何かを失わなければならない。そんなことを突きつけてくるようなエピソードだ。

 

ここでも、マックスの日記が興味深い。

昔のSFドラマに、こんな話があったな…ナチスが戦争に勝つ未来を変えるために、宇宙船の船長が愛する人を死なせるの。どんな究極の選択だよ、って話。

私が女子トイレでクロエを助けなかったら、そのあとの未来はどうなっていたんだろう…

物語のラストまで知っている人なら、ギクッとなるはず。

どちらを選ぶにせよ、選ばなかった方への罪悪感は残る。人物Aを傷つけた罪悪感を解消しようと過去を変えると、人物Bが不幸になり、Bへの罪悪感に駆られる。この場合、さらに時間を巻き戻すべきなのか、それともそのままにすべきなのか。もちろん、正しい答えなどあるわけがなく。だから、罪悪感による苦しみは残る。マックスの日記にも、ふとしたきっかけで罪悪感が滲み出る。

 

引っ越しの際にクロエと距離を置いたことから、マックスのクロエへの罪悪感は始まった。その後、過去を変えクロエを事故に遭わせたことで、さらに罪悪感は積み重なる。

だからなのか、過去を変えて以降のマックスには揺らぎがない。彼女の行動原理は「何があってもクロエは守る」というものへと変化するのだ。その行動原理のもと、敢えてマックスはウィリアムを見殺しにするという新たな罪悪感を引き受ける。

 

そこまでマックスがしたにもかかわらず、エピソード4のラストでクロエが何者かに撃たれ、命を落とす。クロエと共に事件の真相を追い続けるうち、深部にまで入り込んでしまったゆえ、黒幕の罠に嵌められてしまったのだ。

『ライフイズストレンジ』は全5話。ラスト手前のエピソードの締めが、「何があっても守り抜く」はずだったクロエの死というのが、何というか、脚本の妙だなぁと思ったりする。

 

 

今回はエピソード3以上に、ぐっと黒幕に近づいていくことになるので、終始、背筋がヒヤヒヤさせられる。特に、デイビッド、ネイサン、フランクから得た情報をもとに割り出した「暗い部屋」へ忍び込むシークエンスのスリリングさと来たら!寂れた農場の納屋の中を探っているうちに、秘密の入り口を見つけだし、試行錯誤しながら扉を突破する。その先に広がる、不気味な空間。ここではケイトだけでなく、多くの少女たちが薬を盛られ、不気味な写真を撮られていたという事実。レイチェルもまた被害者の一人であり、さらには写真を撮られた後に死んでいたという真相まで明らかになる。

 

サナギの中に閉じこもっていた(大人になろうとしなかった)マックスが、自分を苦しめる罪悪感の源であるクロエと対峙・和解を繰り返しながら、誰か(ブラックウェルやアルカディア・ベイの人々)のために粉骨砕身する。その中で徐々にマックスは子どもから大人への階段を上っていく。

 

階段を上っていった(物語的には階段を下りたと言ったほうが良いが)先に待っている暗室の主は、マックスの担任教師であるジェファソンだった。ジェファソンは、写真家を夢見るマックスにとっての憧れや目標とされてきた人物だが、エピソード4の終了間際に彼の暗部が晒し出される。

 多くの子どもたちは両親の話をそっと聴き、両親の影の部分を認識することによって、彼らの自立への一歩を踏み出すものである。

 

引用元:河合隼雄『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』、講談社

憧れの人物の影。成長物語のクライマックスの手前でマックスに突きつけられたわけだが、それと如何に対峙して成長していくかを描くのが、最終話であるエピソード5なんじゃないかと思う。

 

※続きはこちら

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