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『ライフイズストレンジ』(LISシリーズ第一作目)ネタバレ感想③(エピソード5)

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※注意!『ライフイズストレンジ』の(エンディングも含め)ネタバレがあります。

 

 

前回の記事はこちら。

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

各エピソードの感想

エピソード5「偏光」

マックスがジェファソンの手に落ちたところから始まる最終話。とにかく危機的な状況が何度も何度も押し寄せてくるから、初回プレイの時は息つく暇がなかった記憶がある。

ジェファソンによって暗室に連れ込まれ、拘束されたマックス。タイムリープの力を使いながら過去の出来事を変えて、ジェファソンの野望を阻止しようとする。何とかクロエが死んでしまう前にジェファソンが逮捕されるような世界線に変えるものの、アルカディア・ベイを大嵐が襲い、クロエがまたしても危機に陥る。

 

クロエを救うため、エピソード5では何度もタイムリープを繰り返す。何度も繰り返し、何度も模索した後、クロエが生き残る世界線まで辿り着く(本当にプレイしていて大変だった…)。

クロエと共に嵐を避けるため、高台にある灯台に向かうマックス。そこで彼女は気を失い、悪夢の世界へと入り込んでしまう。

 

ここが今作中、一番骨が折れるパートだったのだが、マックスの罪悪感が凝縮している空間ということで、一番興味深いポイントでもあった。

悪夢の世界では、人々がマックスを責め立てる。今までプレイヤー(マックス)の選択によって不利益を被った者たちによって、マックスは押し殺してきたであろう罪悪感と対峙させられてしまう。

悪夢の最中に読めるマックスの日記は、文章も回りに描かれた絵も攻撃的だ。

何度失敗したら気が済むの?

何度クロエを死なせたら気が済むの?

まともな人生送ってないからこうなるんじゃないの?

(中略)

自撮りでもしてりゃいいじゃん。もうできることなんてほとんどないよ。みんな、灯台に向かおう!ねえマックス、どうしてみんなを殺そうとするの?みんながあなたになにをしたって言うの?

このいじめ野郎。

 

みんなの役に立ちたいと言っていたマックス。しかし、そこに欺瞞はなかっただろうか。動画の拡散に悩むケイトに対して力になろうと申し出たにもかかわらず、自分の身に害が降りかかりそうになったときには及び腰になった。首から下が不自由になった世界線でのクロエから自殺の幇助を頼まれたときには、結果的に彼女を突き放すことになった。クロエが事故に遭わない世界線へと戻すため、ウィリアムを見殺しにした。クロエが父を失った直後、引っ越しで彼女から離れることができたことに対し、少し安堵していた。

 

これらは確かに不誠実と言えるかもしれないが、マックスは別に神のような全能の存在ではない。すべての事物に対して正しい行いで応えるなんて不可能だ。とはいえ、こういったひとつひとつの「自分が不誠実だと思った自分の行為」は心の中に巣くって離れてくれやしないんだろうな、と、マックスの悪夢パートをプレイするたびに思う。誰かのヒーローでいたかった、誰に対してもヒーローでいたかった。そんな理想と現実が乖離するごとに、自分の不誠実さが目につく。罪悪感が強まっていく。

 

悪夢パート中に、事故に遭った世界線のクロエがマックスを罵るシーンがある。

せっかくの力も 使いこなせなきゃ意味ないだろ…

レイチェルの代わりにマックス…あんたが死ねばよかったんだ

なまじ時間を戻せる能力を持ってしまっただけに、マックスは自分に過大な重圧を課していたのではなかろうか。時間を戻す能力があったところで、どうしたってできないことはある。それでもレイチェルの死に責任を感じ、全ての人を救えなかったことを罪に感じる。

 

それらの罪悪感と向き合った後、マックスは悪夢から目を覚ます。またしても、日記の内容が興味深い。

悪夢の正体ははっきりしてる。写真家になることへの不安や、巻き戻す力のこと。それと、時をだました共犯者、クロエ・プライスのこと。

マックスの罪悪感のスタートは、父を亡くしたクロエと距離を置いたことから始まった。もし、マックスに時間を巻き戻すという力が備わらなかったとしたら?そのときは、疎遠になったまま和解することもないうちに、クロエと永遠に別れることになってしまう。ある意味、マックスが時間を巻き戻してきたのは、根源となる罪悪感を解消するためだったのかもしれない。その結果、運命は変化し、アルカディア・ベイに大嵐を招くという結果になってしまった。

 

ここでクロエから突きつけられる「クロエを犠牲にするか、アルカディア・ベイを犠牲にするか」という最後の二択は重い。

 

 

私は初回プレイ時、クロエを犠牲にする方を選んだ。こちらの方がマックスの成長譚としては、綺麗に終わるような気がしたのだ。このルートの場合、クロエという存在は、サナギに閉じこもったマックスが大人になるまでの移行対象だったように思う。

移行対象(いこうたいしょう、英: transitional object)とは、過渡対象とも呼ばれる、イギリスの精神分析医ドナルド・ウィニコットが提唱した概念であり、乳幼児が特別の愛着を寄せるようになる、毛布、タオル、ぬいぐるみなど、おもに無生物の対象をいう。

漫画『ピーナッツ』に登場するライナスが、いつも肌身離さずを持っている毛布(安心毛布)が、これにあたる。乳幼児は、移行対象を触ったり口にくわえたりすることによって安心感を得るが、ウィニコットによれば、こうした対象は、乳幼児が「自分は万能ではない」という現実を受け入れていく過程を橋渡しし、母子未分化な状態から分化した状態への「移行」を促すものである。

 

引用元:移行対象 - Wikipedia

 このように「移行対象」とは幼児から成人に至るまで、精神的な意味で「大人になりきれない」人たちに必要とされます。彼らが現実に移行するためのアイテムとしてそれはあります。

 

引用元:大塚英志『キャラクターメーカー』、星海社

 

自分に自信が持てなかったマックスを冒険の世界へと連れ出したクロエ。時にはクロエによって危険な目に遭うこともあったが、それでも彼女といるとマックスはサナギに籠もった頑なな少女から抜け出せることができた。エピソード3の日記で、マックスは以下のように書いている。

クロエといると、私まで「いいじゃん、やっちゃえ」って気分になれるから不思議。

 

サナギから孵化するまでの不安定な時期を共に過ごしたクロエ。そんなクロエと別れることで、マックスは大人になるための階段の最後の段を上りきったのではないかと思う。

 

とはいったものの、アルカディア・ベイを犠牲にするルートにしても、街の人たちを犠牲にしたという巨大な罪悪感を抱え込むことになるわけで。この罪悪感と共に生きていくのも、それはそれで大人へのビターな階段を上ったように感じたりもする。

 

 

全体的な感想

ごく普通の学校や街で奇妙な事件が起こるという、ミステリアスな展開。マックスの力をプレイヤー自らが使って、状況を打開していくというゲーム性。第一作目は、やっぱり名作だなと思う。

ただ、マックスの能力は時間の巻き戻しということもあって、問題を解決するまで、何度も時間を巻き戻す必要があったのは中々骨が折れた(後の作品だとかなりヤバい展開になったとしても、それはそれで話が進むので)。特に悪夢のパートでジェファソンから逃げるシーン!暗闇の中、ジェファソンが懐中電灯を持って歩きながら、マックスを延々と探し求めているという恐怖のシーンである。しかも、ジェファソンは一人だけではないので、ジェファソンAから逃げたと思った直後にジェファソンBに見つかってしまうという。

時間を巻き戻す能力はここでも使えるので、前に進みつつ、見つかったら時間を巻き戻せばいいのだが、どうしても逃げられない状況(いわゆる「詰み」の状況)になることもある。その場合、強制的に時間を巻き戻させられ、マックスの位置もスタート地点に戻ってしまうので、そこが辛い。

私が初めて今作をプレイしたのがスマホ版だったのだが、少々操作性が悪いこともあって、何度も何度もジェファソンに見つかって「んあーっ!!!」となったなぁ…。とにかくちょっとでも前に進むとジェファソンに見つかって「ヘイ、マーックス!」ってドスのきいた声で怒鳴られるんですよ。*1時間を巻き戻して再チャレンジしようとした矢先に見つかり、またしても「ヘイ、マーックス!」と叫ばれるという…。もう怖い、怖い。深夜にやっていたから、更に怖かった。

ここのシーン、もっと難易度下げてくれても良いと思うんだけどなぁ。

 

 

個人的にエピソード3でクロエと夜のプールに忍び込むシークエンスで、マックスの下着が上下ちぐはぐなのが良かった。マックスってそこまでおしゃれに興味がないキャラなのだが、しっかりと下着までおしゃれに興味がないキャラが貫かれているところに感動しました!ほら、普通フィクションのキャラの下着って、上下揃ってて当たり前じゃないですか。そこをあえて、上下バラバラにさせているという制作スタッフの心意気!しかも、その下着もレーシーさが全くないし。うん、すごくマックスっぽい。

って何を下着でここまで熱くなっているのだろうか、私は。

 

 

それはさておき。第一作目には番外編がある。クロエが主人公の前日譚『ライフイズストレンジ ビフォアザストーム』という作品がそれだ。私は英語できないくせに英語版でしかプレイしていないので、あまりきちんと話を理解していない。というわけで、そのうちきちんと日本語版をプレイしてみたいところだなぁとは思う。主人公がクロエなので時間を戻すことはできないけれど、無印版よりも幻想的な演出が多くて、プレイしていて新鮮だった記憶はある。

そのうち『ビフォアザストーム』の感想も書くことがあるかもしれないが、今回はひとまずこの辺で失礼したいと思う。お付き合いいただき、ありがとうございました。

 

 

※『ライフイズストレンジ2』の感想はこちら

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

 

 

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*1:スマホ版の音声は英語のみ

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