※注意!『オテサーネク 妄想の子供』のネタバレがあります。
何というか、かんというか。どんでもねーもんを観てしまった。『オテサーネク 妄想の子供』。
あらすじはこんな感じだ。
子どものいない妻を慰めようと、夫ホラークは木の切株を赤ちゃんの形に削ってプレゼントする。夫人はその切株に本物の子どものように接し、かいがいしく世話をする。しかし、隣に住む少女アルジュビェトカだけは、夫婦のこの奇妙な行動に、チェコに古くから伝わる民話“オテサーネク”との符号を感じていた。それは、子どものいない夫婦が切株を育て、最後にはその切株に食べられてしまうというもの。やがて、ホラーク夫人の切株も民話と同じように生をうけ、周りのものをどんどんと食べ尽くしていく……。
最初にお詫びさせていただきたい。
今回は下品な話が出てきます。お食事前の人は読まずにバックしてくださいね!
とにかく映像が気持ち悪い。冒頭に出てくるのはホラーク夫妻の夫カレルが見る幻影なのだが、それが魚屋の屋台で赤子が売られているというもの。水槽に網を突っ込んで赤子をすくい取り、新聞紙に包んで客へと手渡す…。赤ちゃんを魚に置き換えるという描写に、この時点で生理的嫌悪感を催してしまった。
そして、メインキャラ(?)、ホラーク夫妻の子供オティークが不気味で仕方ない。切り株を赤子に見立てているという形なのだが、とある出来事をきっかけにオティークに命が宿ってしまい、人間の赤子のように泣くわ、暴れるわ、食べるわを繰り返す。その動きはストップモーションアニメによるものだ。オティーク以外の人物や世界は完全に実写だという中、一人だけコマ数少な目に動く不自然なオティークが怖いったらない。実写人物とオティークのミスマッチが絶妙なまでに不快感を煽ってくる。
個人的に一番精神的にキツかったのが、食事描写だ。
何とマズそうな料理であることか!
不勉強なもので、この作品で初めてヤン・シュヴァンクマイエル監督の作品に触れたのだが、そもそもマズそうな料理描写というのが監督の特色であるらしい。
作品では「食べる」という行為を頻繁に扱うが、作中に登場する食べ物は不味そうに見えたり、執拗なまでに不快感を催すような描写がされたりする(人物がものを食べるとき、口を画面いっぱいに広がるぐらいにズームして強調する、不快な効果音がつくなど)。こうした描写の理由のひとつとして、本人が「子供の頃から食べるということが好きではなかったからだ」と発言している(「シュヴァンクマイエルのキメラ的世界 幻想と悪夢のアッサンブラージュ」)。
食に関しては、シュバンクマイエルの子供時代の体験がもとになっている。ものを食べたがらない子供で、両親が食べさせようとしたが逆効果で嫌悪感が増して体が弱り、車椅子で通学した時期もあった。シュバンクマイエルは食べる行為について、文明や社会が何でも食べてしまうことを象徴する恐ろしさを感じている[6]。
確かにあの描写は食べることが嫌いな人ならではだよなぁと納得してしまった。
ホラーク夫妻の隣に住むシュタードレル一家の食事風景が頻繁に出てくるのだが、食卓に並ぶのはスープ(しかも粘度が高そうで色合いが悪いやつ)が多い。そのスープを夫人が皿によそうと、「ボチャッ」とか「ベチャッ」とかいう気持ち悪い音が立つ。さらによそい方が乱暴なため、スープが飛び散るのである。当然、テーブルクロスも皿の縁も飛び散ったスープで汚れてしまうため、見た目がよろしくない。この時点で食欲が減退してしまう。その上、一家の食べ方が汚いせいで、ゲンナリ度がさらにアップすること請け合いだ。ああ、しばらくはドロドロ系スープは食べたくないし、見たくもない。
唯一、透明なスープが出てくるシーンもあるにはある。薄いコンソメスープみたいな感じの透き通った黄色いスープ。野菜もたっぷり入って、健康にも良さそうだ。
だけど、直前のシーンで「赤ちゃんのお漏らし」の話題が出ているのは何故なんですかね!?こんな話題が出た直後に「ジャバーッ」と音を立ててスープをよそうのはやめてくださいね!!(激怒)
しかも、シュタードレル氏が嫌いな具を皿の縁に避けているおかげで、お漏らし抜きにしても見苦しいったらありゃしない。
市販品のチョコを食べるシーンも油断ができない。シュタードレル氏がチョコをかじると、中に入っているクリームがとろりと出てくる。私はクリーム入りのチョコは大好きなのだが、氏の口からクリームがあふれている光景が余りにも…その…精液のように見えてくるから気持ち悪い。私の名誉のために言っておくが、直後に娘のアルジュビェトカが精子について言及しているので、これは明らかに狙った演出である。決して私の心が汚いからそう見えるとかではない。ないったらない。
ホラーク夫妻がオティークのために用意するミルクですらマズそうに見えるのには脱帽するしかなかった。哺乳瓶に入れる前に鍋で煮込むのだが、ぐつぐつと煮立ったミルクが何故か汚らしく見えるのだ。ミルクに限らず、この作品では吹きこぼれ描写が多く、こぼれた液体が拭き取られることもなくコンロにこびりついている所がアップになる。頼む、キッチン用の「激落ちくん」プレゼントするから、今すぐ拭いてくれ!
あと、茶色くて油の浮いているミルクがあったけど、あれは何なんだろうか。あれ、赤ちゃんに飲ませて良い物なんだろうか。
その他にも、登場人物みんなが頭のネジが飛んでいて怖かったとか、食事描写で気持ち悪くなっている矢先に来る妻ボジェナのゲロシーンにゲンナリしたとか、色々と言いたいところはあるのだが、とにかくこちらの食欲を消失させる食事描写は圧巻だった。
上で散々キレながら紹介させていただいたが、あくまでもこれらの不快な料理描写は明らかに監督の意図に沿った物であり、私はしっかり監督の思惑通りになってしまったわけだ。監督すげえよ。参った、降参だよ。食べることが大好きなのに、この作品を観賞して以降、食欲が湧かなくなってしまった。これはマズい。普段の自分を取り戻すため、飯テロ動画を漁らなければならない。逆に考えると、ダイエットしたいときには『オテサーネク』を観れば、苦労せずに食事制限ができそうだ。
食事描写のことばかり言及してしまったが、現実と妄想が混ざり合う感じとか、ハマる人はとことんハマりそうなタイプの映画だと思う。ごちゃごちゃ言った食事描写にしても、オティークという人食いモンスターの不気味さを際立たせるために一役も二役も買っていたわけで、とにかく没入感も素晴らしい。もう一度観る気にはまだならないが、観賞する価値は十二分にあったと言っておきたい。
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