※ネタバレあります。ご注意ください。
好きなのに、できることならもう一回観たい気持ちもあるのに、観ることができない映画が私にはある。
簡単に言うと、トラウマなシーンがあるために再度観賞ができないのだ。「そのシーンだけ目をそむけたり、薄目を開けて観りゃいいじゃんかよう」と自分で自分に言ってやりたいが、それでもビビりの私はトラウマ映画から逃亡してしまうのであった。
今回は、そんな私にとってのトラウマ映画(でも好き)の話である。
『リング0 バースデイ』
映画版『リング』シリーズが好きだ。ホラーはホラーでも、ギャッと脅かすタイプの怖さではなく、湿度の高い感じの怖さ。日本ならではのじめっとした感じが常に漂っていて、怖いけれど、そこがたまらなく好きなのだ。
今となっては少々ネタキャラと化してしまった貞子だが、やっぱりブラウン管に近づいてくるときの不気味さは秀逸だと思う。しかも、ブラウン管の向こうからこっちに越境してくるわけで、それまでのホラーではあり得ない登場の仕方だった。
『リング0』は怪物的存在になってしまう前の貞子の話だ。とにかく仲間由紀恵さん演じる生前の貞子が可愛い。あの清楚な見た目に儚げな雰囲気、弱々しいしゃべり方、不幸な生い立ち。同じ女性の私からしても「可愛い!守りたい!」と思わせるくらいの威力がある。ストーリー自体も面白いのだが、それ以上に私は貞子を愛でる映画として認識している。では何故にもう一度観ることができないのか?
貞子の母親が怖いからである。
貞子の母はとある出来事がきっかけで発狂する。狂った貞子の母は『リング2』でも登場しており、これも大変怖い。狂った母が悪鬼のような表情で『2』の主人公・高野舞を睨んでくるシーンには全身が竦んでしまった。
『0』の回想シーンでも貞子の母親は登場する。母親はひたすら鏡を見ながら自分の髪を梳かしているのだが、その狂気に満ちた笑みが怖い。あのとき一度見たっきりだから、正確ではないかもしれないが、目玉はひん剥かれ、口は裂けんばかりに横に開かれており、「あ、だめ。一秒以上見ていたらショックで心臓止まっちゃう」などと思ってしまうレベルの恐ろしさがあった。
私の記憶が確かなら、『0』で貞子母が出てくるシーンはこれだけだ。ここだけ目をそむければ、可愛らしい仲間由紀恵の貞子が堪能できるのだ。それでも魔が差して、うっかり貞子母を見てしまうかもしれない。わずかな可能性を恐れ、私はやっぱり今日も『リング0』に手を出せないのである。
『チェイサー』
『コクソン』のナ・ホンジン監督の作品。デリヘル経営者が主人公で、敵役は風俗嬢を狙ったシリアルキラーという設定からしてすげえ作品である。
あらすじは以下の通り。
元刑事のオム・ジュンホ(キム・ユンソク)が経営するデリバリーヘルスで、ヘルス嬢が次々と失踪するという事件が起きる。ジュンホは彼女たちに渡した高額な手付金を取り戻すため捜索を開始する。 やがて、出勤したキム・ミジン(ソ・ヨンヒ)の客の電話番号が、それまでに失踪した嬢たちが最後に仕事をした相手と一致していることが発覚。ジュンホは単身、男の自宅へ向かっているというミジンのもとへ急ぐ。ンホは、女たちが残した携帯電話の番号から客の一人ヨンミンに辿り着く・・・。
問題のシーンは、ミジンがヨンミンの家に着いた後、時間を稼ぐためにトイレに行くところだ。とにかくここで出てくるユニットバスの見た目が怖い。見た瞬間、ここで何が行われてきたかがわかってしまうほどに禍々しいのだ。タイルに染みついた血とか、重苦しい空気とか、他にも人毛とかも散らばっていたように記憶している。こんなにおぞましいユニットバスを、私は他に知らない。
だが、勘違いして欲しくないのだが、私はこのユニットバスが嫌いではない。いや、むしろこれをつくりあげた美術スタッフを全力で讃えたいとすら思っている。いっそ神々しく思えるほどに禍々しいセットを創り出せるなんて、どこの天才なんだ。
素晴らしいセットだ。でも怖いから、もう一度観たくはない。もう一度観た暁には、あの光景が長期記憶に刻まれてしまうに違いない。そうなったらこれから先、私は夜中にトイレに行けなくなってしまう。
ナ・ホンジン監督の作品なので、クオリティは非常に高いし、ストーリーもスリリングで息をつく暇もないほどに面白い。私は二度目の観賞に至れずにいるが、サスペンス好きの方にオススメしておきたい作品である。
あと、これのせいでヨンミン役のハ・ジョンウさんを別作品で見るたびに、「あんた、腹に一物あんじゃねーのか?」と勘ぐるようになってしまった。ハ・ジョンウさん、ごめんなさい。
『自殺サークル』
園子温監督作品。タイトルからしておどろおどろしいが、内容もタイトルを裏切らないレベルでおどろおどろしい。
あらすじは以下の通り。
新宿のプラットホーム。楽しげにおしゃべりをする女子高校生の集団。電車がホームに入ってきた瞬間、彼女たち54人の女子高校生たちは手をつないだまま飛び降りた。同じ頃、各地で集団自殺が次々と起こり始める。“事件”なのか“事故”なのか、迷う警察。そんな中、警視庁の刑事・黒田のもとに次回の集団自殺を予告する電話が入る。本格捜査に切り替え、なんとか集団自殺をくい止めようと奮闘する黒田たちだったが……。
とにかく血が飛ぶ。人が死ぬ。最初は飛び降り自殺等のメジャーな(?)方法で人が死んでいくが、やがて自殺の方法自体も狂っていく。それが怖い。さらにストーリーが意味不明なのも怖い。人々を集団自殺に走らせる黒幕的な存在がいるようなのだが、では具体的に誰なのか、何のために動いているのかがわからなくて怖い。
スプラッタなシーンに怯え、ストーリーの理解不能さに震える。90分という、あまり長くない作品なのだが、なかなかにお腹いっぱいになる。
ただ、スタッフロール直前でとある人物たちが言うセリフに、なぜかとても救われた気がした。すっきりしない結末を迎えたはずなのに、この一言だけで、私の中ですべての感情が昇華されていったのだ。
もう一度観る覚悟はないが、忘れがたい作品だ。
『紀子の食卓』
同じく園子温監督作品。『自殺サークル』と世界観がつながっているが、単独で観ても充分に楽しめる。
あらすじは以下の通り。
17歳の平凡な女子高生・島原紀子は、退屈な田舎の生活や家族との関係に息苦しさを感じ、東京へと家出する。紀子は“廃墟ドットコム”というサイトで知り合ったハンドルネーム“上野駅54”ことクミコを頼って、彼女が経営するレンタル家族の一員となる。一方、紀子の妹・ユカもやがて“廃墟ドットコム”の存在を知り、紀子を追って東京へと消える。それから2ヵ月後、紀子の母・妙子は自殺、残された父・徹三は“廃墟ドットコム”を手がかりに娘たちの行方を追う…。
スプラッタなシーンはあるものの、『自殺サークル』ほどは多くない。だが、私個人の感想としては『自殺サークル』以上にトラウマ指数が高かった。
問題のシーンは、あらすじの中にあるレンタル家族サービスに関するものだ。メンバーの中に"決壊ダム"というハンドルネームの女性がいるのだが、彼女のもとに依頼がやって来る。妻に逃げられた男性からの依頼で、妻を殺したいから、妻になりきって殺されてくれというもの。ここからしてぶっ飛んでいる。そして決壊ダムさんは嫌がることなく依頼主のもとへ行く。依頼主も怖いが、決壊ダムさんも狂っていて怖すぎる。
決壊ダムさんと付き添いのクミコが訪問した瞬間、男は容赦なく決壊ダムさんを刃物で刺しまくる。抵抗しない決壊ダムさんはもちろん、それを止めないクミコもクレイジーだ。なんというプロ根性!
決壊ダムさんが刺される中、クミコは事前の打ち合わせ通り、オーディオ機器の電源を入れる。そこから流れてくるのはマイク眞木の「バラが咲いた」である。
鮮血飛び散る中で鳴り響く、ほっこりとした歌声。このミスマッチが怖すぎるのだ。やがて決壊ダムさんは絶命し、満足した男はクミコにサービス料金を支払うのだった……。
一連の出来事の狂いっぷりが怖い。彼らの行動原理が1ミリたりとも理解できない。理解できないのが怖い。とにかく怖い。
完全に個人的な話になるのだが、「バラが咲いた」は私が生まれて初めて楽器で演奏した曲だ。幼稚園の頃、演奏会にてクラスのみんなと鍵盤ハーモニカで演奏したのだ。とても思い出深い曲だった。
今では完全にトラウマソングになりました。もちろん、マイク眞木さんに責任はありません。
こんな感じで怖い思いをさせられたが、終盤の紀子と父親の対峙シーンは本当に良かった。人と人とが魂レベルでぶつかり合うことの苦しみを映像で象徴的に表現しているところがたまらなく好きだ。それまで紀子たちが表面的にしかふれ合ってこなかったからこそ、本音でぶつかり合ったときに、あれほどの血が飛ぶ。馴れ合いの一切ない、魂と魂のぶつかり合いに心が震えた。
『リリイ・シュシュのすべて』
青春の暗黒面が詰まっていると思う。
仲良かった少年たちが、とある出来事をきっかけに「いじめっ子といじめられっ子」の関係へと変わる。その切り替わり方が唐突で、それでいて現実にありそうなのが恐ろしい。
この出来事そのものを体験しているわけではないのに、なぜか見覚えがあるような気がする。思春期に感じた閉塞感とか、ネガティブな感情とかを、きちんと表現してくれているからなのだと思う。
できれば『牯嶺街少年殺人事件』と立て続けに観賞して、色々と比較してみたいのだが、精神的にきつそうなので、まだ覚悟ができずにいる。
それはそうと、終盤の舞台となるのは、謎のアーティスト「リリイ・シュシュ」のコンサート会場。あそこ、代々木第一体育館ですよね?
代々木第一体育館って、V6の聖地なんですよ。私、何度もV6コンサートを観に行きました。そんな思い出の場所で、あんなトラウマイベントを起こさないでください、監督(号泣)
おまけ「うっかりDVDを買ってしまったトラウマ作品」編
評判が良いからDVDを買ったところ、えげつないレベルのトラウマ作品だったよ!せっかくDVDを持っているというのに、もう一度観ることができないよ!
『ベイビー・オブ・マコン』
エロい、グロい、何より後味が悪い。「こっち見んな」または「なにわろてんねん」と言いたくなるようなラストシーンの衝撃は、冒頭からの描写の積み上げによるたまもの。ある意味必見のシーンである。
全編通して演劇をしているという設定。だが、劇の本編と舞台裏の光景、観客の境界が段々と崩れていき、どこから現実で、どこから虚構なのかがわからなくなってくる。そこで起きるグロテスクな出来事の数々。何度、これは虚構であってくれと願ったことか。
現実と虚構が混じり合うタイプの作品が好きな方には、ものすごくオススメしたい。
『アンチ・クライスト』
トラウマ映画を撮らせたらピカイチ、ラース・フォン・トリアー監督作品。森の禍々しい面が、これでもかと表現されている。そう、自然とは人間が制圧できるものではないのだ!
トリアー監督作品に多い章立て構成の作品。エグい展開にお腹いっぱいになっていたところで新章が始まったときは「まだ続くんですか!?」と思わず叫んでしまった。
男性にとっても、女性にとっても、見ていて股間が痛くなるシーンがあるという、ある意味で男女平等な作品。
『ベイビー・オブ・マコン』も『アンチ・クライスト』ともに、テーマ性もクオリティも非常に高いので、豆腐メンタルの人でなければ一見の価値がある作品だと思う。
こういう脳髄を掻き回してくる作品と出会えるから、やっぱり映画はやめられない。
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