※注意!『ライフイズストレンジ ビフォアザストーム』及び『ライフイズストレンジ』のネタバレがあります。
『ライフイズストレンジ』シリーズ第1作目の前日譚『ライフイズストレンジ ビフォアザストーム』(以下『ビフォア』と表記)はクロエが主人公!現時点では唯一超能力が絡んでいない作品だが、しっかり『ライフイズストレンジ』らしさはあるので、しっかり楽しめる作品だと思う。
第1作目の前日譚という『ビフォア』の特性上、第1作目未プレイの人向けにどっちからプレイすべきかも書いてみた。
プレイ済みの人は、目次の「感想」からどうぞ。
『ビフォアザストーム』の前に第1作目をプレイすべきかどうか問題
この記事を『ビフォア』と第1作を未プレイの人が読むのかどうかはわからないが、一応私の意見的なのを書いておこうかと…。
個人的には、いきなり『ビフォア』から始めても大丈夫だと思う。前日譚という性質上、第1作の出来事を踏まえている部分はなし。舞台となる場所や登場人物の多くが第1作とかぶっているものの、各キャラクターがどういった人となりなのか、どういった環境にいるのかは、きちんと『ビフォア』でも説明されるため、第1作目をやっていないことが足かせになることはあまりないかと思われる。
また、『ビフォア』の後に第1作目をプレイするというスタイルも決して悪くはないと思う。
『ビフォア』のメインキャラであるレイチェルは、第1作目でも重要人物ではあるのだが、とある理由で不在の人物となっている。私は第1作目からプレイしたためにレイチェルの人となりがよくわからなかった。それゆえに、あまり彼女に対して思い入れができず、少々他人事のような形で事態をとらえていた記憶がある。『ビフォア』でレイチェルと十分に絆を深めた後に第1作目をプレイした場合、この辺の思い入れが強くなるんじゃないかと思う。第1作目で進行している事件に対し、より当事者意識を持った形で関与できるのがメリットなのではなかろうか。
逆にデメリットとなるのが、第1作目のミステリー的な楽しさが殺がれる点だと思う。第1作目では主人公マックスが通っている学校で不穏な事件が複数発生しており、それらの事件について探っている中で、黒幕に接近していくという流れになっている。マックスがクロエとともに事件を追っている中で、怪しい人物が何人も浮かび上がってくる。その中に『ビフォア』で登場している人物も複数含まれているのである。第1作目だけプレイしている状態だと、誰が黒幕かわからず、すべての人間の挙動が怪しく感じられる。中には『ビフォア』の登場人物のテリトリーに潜入し、ガサ入れをするような展開もあり、非常にスリルを感じたりもする。だが、これらのスリルが『ビフォア』プレイ後だと弱くなってしまうのではなかろうか。『ビフォア』で彼らの人となりや悩み事などを知った後に第1作目をプレイすると、彼らはとても怪しい人間には見えないような気がする。結果、早い段階で消去法によって黒幕を察してしまうかもしれない。
…などと余計なお世話ながら考えてしまった。
個人的には、『ビフォア』からでも充分に楽しめるし、『ビフォア』から始めたことによる楽しみ方もあると思うが、何も知らない状態で第1作目のスリルも味わって欲しいな~なんて思ったりもする。つまるところ、皆さん個々人の好みによって決めると良いのだと思う。
なお、ここから下の感想では『ビフォア』に加え、第1作目の核心に迫る部分のネタバレもしているため、これからプレイするつもりの方々は特にご注意いただきたい。
感想
醜い現実、キレイな嘘
『ビフォア』におけるクロエの現実は厳しい。実父ウィリアムを亡くし、親友マックスからは疎遠にされた上に、数少ない居場所であった家庭においても居場所が失われようとしている。母ジョイスにデイビッドという彼氏ができ、デイビッドが家の中に頻繁に出入りするようになったのだ。クロエはデイビッドを毛嫌いしているが、彼女の気持ちをよそに家の中のデイビッドが占める部分が徐々に増えていく。
そんな醜い現実から逃げるように、クロエは夢の中でウィリアムと語らい、架空のマックス(以下、「イマジナリー・マックス」と呼ぶ)を設定して彼女に対する手紙を書き続けている。
作中では何度も「現実」「嘘」「まやかし」という言葉が出てくる。美しいのは「嘘」や「まやかし」であり、「現実」は汚く、直視しがたいものとなっている。
さて、クロエに急接近してくるのが学校のアイドルで優等生のレイチェル・アンバーだ。このレイチェル、同級生だけでなく大人からの評判も上々である。成績が良く、演劇の才能に恵まれ、しかも美人で性格も良い。
しかし、クロエが実際に付き合ってみると、実はガラの悪い場所に出入りしていたり、ヤバい大人と平気でやり合ったり、精神的に不安定な面があったりと、意外な姿が見えてくるのである。
公に見せている姿と、隠している姿。レイチェルが演劇部のエースであることに絡め、「優等生を演じている」「舞台から降りても仮面をかぶっている」といった表現をされたりもする。
こういった形でも、現実とまやかしを対立的に見せているわけである。
クロエを取りまく現実が厳しいと先に述べたが、レイチェルも厳しい現実に押し潰されそうになっているところだった。検事の父ジェームズと専業主婦の母ローズという裕福な家庭のもと、愛されて育ってきたように見えていたレイチェルだったが、父親に愛人の気配を感じるようになっていたのだ。今まで、優しくて頼りになると信じていた父親の影の部分を知り、レイチェルは「自分の人生は嘘だらけ」だと嘆く。
対照的なのがクロエだ。彼女も父ウィリアムのことを優しく頼りになると信じ、完璧なパパだと慕っていた。だが、彼女の場合はレイチェルと違い、父の影の部分を見つける前に死なれてしまったのである。ウィリアムは死んだことにより、クロエの中での完全性を保つ結果となってしまった。替わりに、父の影の部分はデイビッドが背負うことになるのだが。
影の部分を見せてこない父ウィリアム、クロエの言い分を否定せずに聞いてくれるイマジナリー・マックス。これらの虚構に縋って生きてきたクロエが、現実に押し潰されそうになっているレイチェルを支えていく中で、もう一度現実に生きようとするのが『ビフォア』の物語ではなかろうかと思う。
選ぶべきは、現実か嘘か
で、紆余曲折の後に、クロエはジェームズがレイチェルに対してひた隠しにしてきた真実を知ることになる。レイチェルが知ったなら、ショックを受けることは想像に難くないようなレベルのものだ。
物語の最後で、クロエ(ひいてはプレーヤー)は、レイチェルに真実を明かすかどうかを迫られる。
真実を隠し続けていれば、レイチェルはジェームズを憎まずに済む。今までと変わらず、アンバー家という安全な居場所の中で、幸せに暮らせるだろう。
一方、真実を明かしてしまえば、レイチェルがジェームズに対して大いに失望する恐れがある。確かにジェームズのやって来たことは褒められたことではないし、法的にも許されるものではない。ただ、彼がそんな悪事に手を染めたのも、ひとえにレイチェルを危険から遠ざけたかったためである。その思いを無下にし、レイチェルから安全な居場所を奪っても良いものだろうか。とはいえ、隠しておいたところで、ジェームズが違法行為に手を染めていたことには変わりがない。レイチェルの身になって考えてみると、そんなことを知らずに生きる幸せは幸せと言えるのだろうか?
…ということを最後の選択肢で突きつけられるわけである。
ちなみに私は初プレイ時、真実を告げる方を選択した。その結果、レイチェルはジェームズを激しく拒絶したわけなのだが、そのときのジェームズのショックを受けた表情に物凄い罪悪感を感じてしまった。
何というか、私自身がスッキリするため――自己満足のために、アンバー家を引っかき回したような気がしたのである。とはいえ、私がレイチェルだったとしたら、やはり真実は知りたいような気がするしなあ…。
かくのごとく、どちらを選んでも、何かがスッキリしない。これこそが『ライフイズストレンジ』シリーズの醍醐味ではあるのだが。
余談
などと締めておきながら、もう少し「レイチェルに真実を告げるか」問題について。
それでも長い間、私はレイチェルには真実を告げるべきだと思っていたのだが、最近は考えが変わってきた。これからレイチェルに待つ未来のことを考えると、真実を告げない方が良いのではないかと思えてきたのである。
『ビフォア』の三年後が第1作目なのだが、ここでレイチェルは悲惨な目に遭う。…というよりも、悲惨な目に遭っていたことが明かされる。もちろん、レイチェル本人だけでなく、ジェームズやローズにとっても辛い話だ。
彼女にはあと三年しか残されていない。そう考えると、下手にアンバー家を引っかき回すよりも、クロエである私がすべてを呑み込み、抱え込みさえすれば、レイチェルたちは幸せな三年間を送ることができるのではなかろうか。世の中には、知ったところでどうしようもない真実なんて数多くある。ジェームズのことについても同じだ。知らぬが仏。知りさえしなければ幸せに過ごせるとわかっている相手に対して、真実を告げることの意味とは何なのだろう。
…などと考えてしまった。多分、今後もコロコロと考えは変わるのだろうけれど。
ただ、「レイチェルに真実を告げる」ルートのほうが、第1作目にシームレスに繋がる感じはするよな、という思いもある。この件で父親に失望したレイチェルが父親に替わる存在を求め、フランクやジェファソンといった大人の男と付き合ったりするようになったと考えると、腑に落ちる。逆に真実を告げず、アンバー家の安泰が保たれた場合、レイチェルがああいった男たちと付き合う理由がよくわからないというか。…まあ、真実を告げるにしろ告げないにしろ、父親が完璧でないことは知ってしまったから、それはアリなのかな?
真相はレイチェルのみぞ知る。結論はこういうことにしておこう(締まらない終わり方)。
※第1作目の感想はこちら
※『2』の感想はこちら
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