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『大島渚全映画秘蔵資料集成』を買った

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欲しい欲しいと思っていた『大島渚全映画秘蔵資料集成』を購入した。新文芸坐の『戦場のメリークリスマス』上映会で著者・樋口尚文さんのサイン会が開かれると聞いて、買うなら今だと決断した次第。

かなり思い切った買い物になったが、後悔していない(ものすんごい重いので、持って帰るの大変だったけど)。樋口さん自ら「読む鈍器」と表現されているだけあって、とても分厚い。800ページ強。しかも1ページごとの情報密度も濃いので、今後の人生をかけて読み込んでいけそうな一冊だと思う。

 

過去にいくつか『戦メリ』の感想を書いたのだが、その後も大島渚監督作品をちょこちょこと開拓はしていた。

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観賞済みの作品も増えてきたように思う。なのにどうして感想を書かなかったのかというと、理解不能だったのだ。理解不能すぎて、感想が書けなかったのだ(私の理解力が極めて低いという要因もあるのだが)。

『東京战争戦後秘話』については少しだけ当ブログでも触れた。少しだけ触れるのにも骨が折れた作品だった。

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

その後、『儀式』『飼育』『日本の夜と霧』『日本春歌考』『太陽の墓場』『白昼の通り魔』『帰って来たヨッパライ』『無理心中 日本の夏』を観賞。毎回脳みそがオーバーヒートし、私は天国に向かって「大島監督、参りました」とひれ伏したのだった。

大島監督を初めて見たのは「ボキャブラ天国」で、当時小学生だった私は「いつも審査員席にいる、よくわかんないおっちゃん」ぐらいに思っていた。その後、映画監督なのだと知ったのだが、「えー、うっそーん。ボキャ天に出てるおっちゃんやで。どうせ変な映画しか撮ってないんやろ」とたかをくくっていた。いや、確かに変な映画ばかりなんだけど、違う、違うんだ、小学生だった私よ。

 

 

特に参ったのが『帰って来たヨッパライ』だ。あのザ・フォーク・クルセダーズの名曲「帰って来たヨッパライ」は、リアルタイム世代ではない私でも知っている。そんな名曲を使用し、フォークル自身が主演だという。さすがにこれはアイドル映画みたいにライトな作品だろうと思っていたのだが、実際に観て顎が外れそうになった。

とんでもなく前衛的な内容なのだ。中盤で物語がループしたとき、私はサブスクの配信データがいかれてしまったのかと混乱した。現代の作品で話がループしても何も驚かないのだが、1968年の作品でループされたら度肝を抜かれるわけで。さらに作中でフォークルの三人が街頭の人々にインタビューを始めるというシーンがあるのだが、インタビュイーの中にしれっと大島監督も混ざっているという。メタ要素もあるんかい。びっくりしたなぁ。

話自体も現実と幻想がごちゃ混ぜになるわ、当時の社会問題(ベトナム戦争)が絡んでくるわで、誰か私の隣で事細かに解説して!と叫びたくなるような作品だった。

 

 

あと『無理心中 日本の夏』もぶっ飛んでいた。何しろキャラが濃すぎる。主人公は、とにかく男と寝たがるフーテン娘のネジ子。その他、やたらと死にたがる「オトコ」、銃器大好きで誰かを殺したくて仕方ない「少年」、常にテレビを持ち運んでいる殺し屋「テレビ」等々、変人の博覧会である。舞台は(当時における)現代日本らしいのだが、何かがズレていて、何かが不条理なところが、村上春樹作品を彷彿とさせられた。

ぶっ飛んでいて理解不能な割りには、登場人物の魅力や引力が強いため、結構楽しんで観賞できたように思う。そして、「少年」役の若かりし田村正和が可愛いったらない。古畑任三郎のイメージと全く違うんですね…。

 

 

 

そんなこんなで大島監督作品群に混乱していた私の命綱となってくれそうなのが、今回買った『大島渚全映画秘蔵資料集成』だ。

各所に秘蔵されていた膨大な製作時の未公開写真・ノート類など新発見資料や生々しい記録、記事スクラップなどを作品ごとに集大成し、それぞれ詳細に解説。また別途映画本編についての詳細な解説を付し、さらにそれぞれの時代についての大島渚本人の回想をも加えて贈る、大島映画の根本資料にして時代の記念碑。戦後日本映画史研究に必備の書。

 

引用元:大島渚全映画秘蔵資料集成|国書刊行会

 

大島監督の全作品が企画書や脚本といった資料と共に、作品製作の経緯が詳細に紹介されている。個人的に、各作品につけられている樋口さんの解説文が有り難かった。制作当時の時代背景や、テーマになっている社会問題についても丁寧に触れてくれているおかげで、私の中で大島監督作品の解像度が上がった。あの『帰って来たヨッパライ』のことも、少し掴みかけた気がする…。

『戦メリ』に至っては100ページも割かれているので、ファンとしては嬉しい限り。没になった脚本も、ほんの一部とはいえ読めるのが有り難い。

 

 

なんだかTVショッピングみたいな内容になってしまったが、とりあえず欲しかったものが手に入って嬉しかったよ、ということを言いたいのだった。

 

 

 

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