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最近観た映画についての雑感(2023/6/21 『ザリガニの鳴くところ』『トガニ 幼き瞳の告発』『ケロッグ博士』)

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突然で申し訳ないが、現在肩が痛くて仕方がない。2ヶ月前ぐらいからだろうか。肩甲骨の辺りにゴリゴリした凝りが生じてきた。肩こりになるのは之が初めてではない。ただ、いつもなら上半身のストレッチを続けたら治っていたのだが、何故だか今回は治まってくれない。腕の動きには全く支障が出ていないのだけは不幸中の幸いだが、何しろ痛いのは嫌である。ひどいときは右肩のこわばりが手首にまで伝わってきたりする。となると、長時間タイピングをしていると両肩から両手首がコンクリートで固められたかのように強ばってしまう。なんじゃこりゃ!どうしてタイピングしたぐらいで上半身全体が緊張状態になるのさ!もう怒ってるんだからな!でも、この怒りはどこにぶつければいいんだ。

 

長々と肩の痛みについて書いたのは、ここ最近記事をアップできなかった言い訳をしたかったからです。ごめんなさい。

ということで、今回は軽めの映画感想を書いていきたいと思います。とりあえず、肩の痛みに関しては病院に行くことにしました。もっと早く行けや、私よ。

 

 

 

『ザリガニの鳴くところ』

ある日、湿地帯で男の死体が発見されたことから物語は始まる。死んでいたのは街の人気者チェイス。街の人たちは彼が殺人によって死んだに違いないと噂し、さらに犯人は湿地に住む娘・カイアだと推測する。かくしてカイアは殺人事件の容疑者となり、法廷に引きずり出される…。

 

いわゆる機能不全の家庭で育ったカイア。父は何かと暴力を振るい、その暴力に疲弊した母は一人家を出ていく。それに続くように兄弟たちも出奔し、遂には父親自身までが姿を消す。残ったのはまだ幼いカイア一人だ。学校に行くことすらできず、街に出ると「湿地の娘」とレッテルを貼られ、奇異の目で見られる。そんな風に異物として見られてきた女性カイアの人生が描かれている。

 

正直、ラスト近くまで見ていてキツいと感じることが多々あった。具体的に何がキツいのかと聞かれると、はっきりと答えることはできない。カイアの受け身に徹したような生き方を見ていると辛くなったのかもしれない。時にカイアを愛する男性が現れたりして、恋の喜びを知ることもあるわけだが、その幸せが相手の気持ちの変化で崩れ去ってしまう。そんな感じで外部の人間に暮らしを引っかき回されているカイアの姿が中々に見ていてキツかった。

なので、クライマックスの裁判シーンが終わった後の展開には、かなり白ける思いがした。「え?これでいいの?」といった気持ちになったのだ。これではカイアの根本の苦しみは何ひとつ終わっていないのではないかと思った。

 

しかし、である。最後の最後にその白けた気持ちをひっくり返された。カイアがどういう覚悟で生きてきたかを見せられた気がしたのだ。むしろこの作品はカイアが主人公というよりは、カイアの周りの人間がどのようにカイアと関わったかを問われる物語だったのではないかと思えた。

 

 

『トガニ 幼き瞳の告発』

韓国で実際に起こった性的虐待事件をモデルにしている作品。聴覚障害者の学校に赴任した主人公カン・イノが、校長や教師による生徒への性的虐待を知り、子供たちを守ろうと戦いを始める…。

 

扱っているテーマがテーマなので、前々から見たいと思いつつも見ることができずにいた一作。子供たちが虐げられているシーンは、予想通りキツい。ただ、キツくて良いのだと思う。

 

卑劣な犯罪をカン・イノが知り、子供たちを守るため、校長たちの犯罪を世間に公表しようとする。ただ、カン・イノ自身にも娘がおり、しかも喘息持ちという状態。学校側と対立することで仕事がなくなれば、娘に被害が及ぶ。それでも校長たちを訴えるべきか否かを、カン・イノは悩む。彼の葛藤をさらに揺さぶってくるのが母親だ。現実的な問題として、この訴訟が上手く行くとは思えない。それでも学校側と戦うのか。それでも娘ではなく、被害児童たちを取るのか。母の問いかけに、カン・イノは苦しむ。

自分の娘か、今まさに被害に遭っている子供たちか。どちらを取るにしても、何かを捨てることになる。どちらを取るのも何かが正しく、何かが間違っている。こういう選択肢の難しさを改めて実感させられる。母親の言うことは被害児童たちには酷なのだが、だからといって100%否定できるわけではない。

個人的に後半部分で母親がカン・イノにとあるものを手渡したシーンで泣けてきてしまった。絶対的な正解のない問題において、苦しんで苦しんで苦しみ尽くした末に答えを出したカン・イノに対する、ひとつの福音だったように思える。

 

観賞中、現在話題になっているジャニーズの性加害問題*1を思い出していた。この問題については、私自身がとあるジャニーズ事務所所属芸能人が好きなので、どう受け止めるべきか未だにわからずに今日まで来ている。あの時コンサートで感じた感動は、誰かの苦しみのもとで成り立っていたのか?自分もそれを良しとしていたのか?自分も誰かを搾取している一人だったのか?あの感動自体は否定するべきなのか?等々。未だにわからない。

『トガニ』の中の性犯罪者にはすぐに憤りを覚えることができるのに、ジャニーズ問題になると気持ちが萎えていく。そんな私自身の狡さに嫌になったりもした。

 

 

 

『ケロッグ博士』

ケロッグ博士。そう、あのコーンフレークで有名なケロッグを創立したケロッグ兄弟の兄ジョン・ハーヴェイ・ケロッグである。医療博士だったケロッグ博士は患者に食べさせるための健康食として、コーンフレークを発明したのだ。とはいえ、この作品は「如何にしてコーンフレークが誕生したか」という話ではなく、ケロッグ博士が運営していた療養所での出来事を描いている。

生前のケロッグ博士はとんでもない健康オタクだったという。この作品内の療養所でも、奇っ怪な健康法がこれでもかと出てくる。まず、日常的に行われる浣腸。浣腸自体は今でも珍しくはないのだろうが、この療養所では日に五度も行われる。お尻痛くなんないのかな。その他、電気風呂に電気毛布(20世紀初頭の話である)、何と説明していいのかわからない機械の数々(今で言うランニングマシンとか、体をぺちぺちする名状しがたいマシンとか)…。妻と共に療養所に来たウィルは、博士による健康法に身も心もすり減らしていく。

 

博士によれば、健康のためには肉食はすべきではなく、生殖目的以外のセックスもすべきではないとのこと。というわけで、この作品でクローズアップされるのがセックスの話である。もともと、ウィルとその妻エレノアの夫婦生活は不毛だった。ウィルの自己満足的な行為にエレノアは不満を覚え、「妻はマットレスの穴」だと嘆く。そんな夫婦がセックス禁止の療養所に来たわけだが、逆に身体を解放することになっていく。

 

とにかく作中のセックス表現のおバカさに、うっかり声を出して笑ってしまった。セックス禁止ゆえに療養所内でウィルはエレノアと引き離されてしまう。そんな中で出逢った女性マンツと電気毛布療法の際に性的な話になった挙げ句、彼女と行為に及んでしまうというシーン。看護師が患者たちに向かって呼吸のタイミングを指導している中、ウィルはマンツの毛布の中にもぐり込み、行為を開始する。看護師の「(息を)入れてー、出してー」という声に合わせて震動するマンツの体。ねえママぁ、どうしてこの女の人、寝転がっているのにガクガク震えてるのー?

また、エレノアが「ナデナデ療法」なるものを試しに、とある診療所を訪れるシーンも笑った。ナデナデ療法とは、マッサージを用いる療法らしい。何をマッサージするのかというと、子宮だそうな。というわけで、医師はベッドに寝転がるエレノアの足元に立ち、彼女にリラックスするように呼びかける。彼自身もエレノアのリラックスを促すために歌を歌いながら、施術を開始する。カメラが映すのは、歌っている医師のバストアップとエレノアの手元だけ。いやあ、映っていないエレノアの足元の部分で何が行われているんでしょうねえ。

何だかよくわからないけれど奇跡的な施術によって、緊張していたエレノアは遂に大声で喘ぎ始める。医師による牧歌的な歌とエレノアの激しい喘ぎ声のミスマッチさが良い意味でバカバカしい。さらに、このシーンと並行してウィルがマスターベーション用の機械を試すシーン、ケロッグ博士が講演会で狼を用いて菜食の必要性を説明しているシーンが展開される。喘ぐエレノア、エクスタシーを感じるウィル、そして荒々しく吠える狼が画面に目まぐるしく映し出され、さらに(良い意味での)馬鹿馬鹿しさが高まっていく。

 

そんなこんなで、非常にお下品でおバカな映画である。しかし、セットや服飾は見事の一言に尽きる。私はこの時代のアメリカに詳しくないが、恐らく正確に再現しているのではないかと思う。本気出して再現された古きアメリカという世界の中で繰り広げられるお下品なジョークの数々。滑稽なまでに性を閉め出した空間の中で逆説的に性に目覚めるウィルたちの姿。バカバカしくも妙な爽快感がある。

 

しかし、この映画が公開されたとき、ケロッグ社から抗議とか来なかったんだろうか。まあ今のケロッグ社の実質的な創始者は弟のウィルの方みたいだから良いのかな。*2

当初は共同で会社を運営していたケロッグ博士と弟ウィルが、なで訣別したかについては『ザ・フード』というドキュメンタリーで描かれている。もう少しシリアスなテイストでケロッグ博士の活躍を見たい方は『ザ・フード』をどうぞ。

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

 

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