※注意!The Night Of The New Moon『新月の夜』『影の獄にて』『戦場のメリークリスマス』のネタバレがあります。
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The Night Of The New Moon『新月の夜』感想⑫
Donaldsonの(無謀な)活躍でラジオの部品も手に入り、ようやく外部の情報を手に入れることができるようになった「私」たち。
日本軍の目をかいくぐって情報収集できるのは夜中ということで、傍受役の捕虜が情報を持ち込んでくるのを「私」は寝たふりをして待つことしかできないという状況である。
焦れるような気持ちの中、ようやく係の男がやって来る。
彼が傍受したのはデリーのニュースだ。その内容は日本の広島と呼ばれる場所で、何やらとんでもないことが起こったらしい、というものである。これが広島への原爆投下であろうことは、想像に難くない。
その翌日、改めてデリーからだけでなく、パースやサンフランシスコからの情報も傍受したところ、「私」たちも広島で起こった出来事が何だったかを知ることになる。
『新月の夜』から見えてくる『戦場のメリークリスマス』の側面⑫
広島のニュースを聞いた「私」は、大変動が起きたと感じている。
それまでの状況でも、日本の敗戦について確信していた「私」だが、常に危機感は付き纏っていた。日本人特有の気質や文化的背景から、敗戦の際には捕虜たちを虐殺した上で、自決をするのではという恐れがあったためである。
しかし、今回のニュースを知って「私」は思う。原爆投下とは彼ら日本人にとって神の業と認識されるであろうこと、ゆえに原爆を理由に撤退することは、彼らの名誉を汚すことにはならないであろうこと、それらを「私」は感じ取る。
日本人にとっての「名誉」の問題は『戦メリ』でも描かれていると個人的には思う。その辺は過去に記事にしたので、今回は省略したい。
ただ、これほどまでに「私」が日本人にとっての名誉を重く見ているというのが、個人的に興味深い。なまじ日本の内部にいると気づかずにいる我々の精神性を、外部の人間によって指摘されるような感じがするような感覚というか何というか。
「私」たち西洋の人々からすると、日本人との葛藤を乗り越えるにあたっては、この「名誉」をどう捌くかが問題になってくるのかもしれない。「名誉」を叩き潰して隷属させるのもひとつの手だろうし、相手の「名誉」を慮りつつ程よい落とし所へ持って行くのもひとつの手(現代だとこっちの方が好まれるだろう)だろう。
今回はそれが、原爆だったというのは、何というか、うん。いち日本人としては、とても複雑な心境になってしまうのだった。
(【14】に続く)
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