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戦メリ原作者L・ヴァン・デル・ポストの『新月の夜(The Night Of The New Moon)』を読む【9】

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※注意!The Night Of The New Moon『新月の夜』『影の獄にて』『戦場のメリークリスマス』のネタバレがあります。

 


※前回の記事はこちら

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The Night Of The New Moon『新月の夜』感想⑨

前回Donaldsonという英国空軍少尉が登場したが、さらに「私」の仲間の登場が続く。続いて出てくるのは「私」たちによってDonaldsonのチーフ・アシスタントに任じられたCicurel、外界と「私」たちを仲介する中国人商人Mr Tanだ。Donaldsonや彼らの尽力があって「私」たちは新たな収容所に移った後も、キムとのつながりは保たれたという。

ただ、当のキムから来た連絡というのが、東南アジアの至る所で捕虜の大虐殺が行われる可能性が濃厚だという内容である。前々から日本軍は敗戦にあたり、捕虜を虐殺するのではと囁かれてきたわけだが、ここに来てさらにその可能性が高まったということになるのだろう。

 

そのため「私」は不安に晒されつつも、抵抗の手段を考える。ここにおける「私」のモノローグの内容から、虐殺に抵抗することで捕虜全員が生き残れるという希望は花から持ってなどいないことが読み取れる。ならば、何ゆえ抵抗の道を選ぶのかというと、誰か数人でも逃げ出すことができれば、自分たちの起こった出来事を世界に訴えることができるからというわけである。

理不尽に殺されていった捕虜たちがいたことを、世界の人々や後世の人々に伝えることで、彼らの死を犬死ににするまいという「私」の気概なのだろうと思う。

 

 

『新月の夜』から見えてくる『戦場のメリークリスマス』の側面⑨

日本軍による捕虜の大虐殺の気配が漂ってくる、という当たりで、どうしても『戦メリ』のクライマックスを思い出してしまう。『新月の夜』を読んだ今だと、あちらも歴史の中で積み上げられてきた日本人さらには東洋人の怒りが、ヨノイという人間の形を取って顕現したものだと思える。『戦メリ』ではセリアズという大島監督が言うところの「異国の神」が歴史の中で蓄積した怒りに対峙したわけだが、ヴァン・デル・ポスト卿の実体験に基づいたと思われる『新月の夜』では、誰がどのように東洋と怒りと向き合うのかに私としては注目したい。

 

 

(【10】に続く)

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