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『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』ネタバレ感想――この映画は無力感に立ち向かった少女たちの物語だ

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※注意!『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』のネタバレがあります。

 

今回は、欅坂46のドキュメンタリー映画『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』についての感想である。

 

本文に入る前に、まず私の欅坂46(櫻坂46)に対するスタンスを説明させていただきたい。

私は欅坂が好きだ。だが、メンバー全員の顔と名前は一致していないし、全局押さえているわけでもない。いわゆるライト層だ。

推しは、現役メンバーでは小林由依と小池美波、元メンバーでは石森虹花、鈴本美愉、平手友梨奈。好きな歌は『サイレントマジョリティー』『避雷針』『誰がその鐘を鳴らすのか?』。

 

 

そういうわけで、「好きなんだけど、詳しいわけではない」というレベルの人間が書く記事である。

 

どうか、お手柔らかに願います(土下座)。

 

 

依存と自立を描いた作品

内容は以下の通り。

2015年に結成された「欅坂46」は、翌年4月にリリースした1stシングル「サイレントマジョリティー」がオリコンチャートで1位を獲得し、女性アーティストのデビューシングル初週売上の歴代トップになる。年末には第67回紅白歌合戦に出場し、その後各地で行われたアリーナライブやロックフェスに参加。2019年には初の東京ドームライブを行うが、2020年に高い人気を誇る平手友梨奈が脱退を宣言する。

 

引用元:解説・あらすじ - 僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46 - 作品 - Yahoo!映画


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絶対的センター平手友梨奈を中心に、グループの発足から活動休止までが描かれている。今、「平手友梨奈を中心に」と書いたが、私個人としては、この映画の主役は平手以外のメンバーだと思っている。

 

本編は大きく以下のパートに分けられる。

  1. 欅坂発足後、たちまち人気アイドルの地位を確立する。
  2. 平手に変化が生じ、コンサートを欠席するようになる。
  3. 絶対的センターを欠いた状態で、他のメンバーたちが平手に頼らないパフォーマンスを模索していく。
  4. 平手が脱退し、残されたメンバーは「欅坂46」としての活動休止を決定。名前を変え、新たなスタートを切ると発表する。

身も蓋もない言い方をさせていただくと、「欅坂メンバーの平手からの自立」物語である。

 

 

絶対的センター平手友梨奈

序盤で平手のずば抜けたパフォーマンスを前に、メンバーが圧倒されるシーンがある。上手くできないと泣くメンバーがいる一方、平手は少し前まで一般人だったと思えない表現力を見せる。見入るメンバーたち。小林由依に至っては、己との違いに打ちのめされているようにすら見える。

ふと、イチローや大谷翔平と同じ時代を過ごした高校球児たちの気持ちを考えてしまった。同期に神がかった才能を持った人間がいたとき、それでも人は己を強く保つことができるだろうか?

 

過去記事で、若いころに綿矢りさへの嫉妬に駆られたという経験について語った。

nhhntrdr.hatenablog.com

綿矢氏はまさに小説を書くために生まれてきたような存在だ。17歳にして発表した『インストール』の文章センス、ストーリー構成、芯のあるテーマ。これだけの才能を前に、私はひれ伏すか、目をそむけるかの二択を迫られ、目をそむけることにした。

 

他のメンバーだって厳しいオーディションを勝ち抜いてきたのだ。最終選考結果が発表された時点では、誰にもセンター就任の可能性があったはずだ。だが、いつの間にか平手以外のセンターという選択肢はなくなり、ひとりのセンターに依存する体制が出来上がっていく。

 

 

ブレイクスルー

2017年、初のアリーナツアーで平手の欠席が発表され、メンバーに突きつけられたのが「代理センターを立てる」と「平手ポジションを埋めることなく、従来のパフォーマンスで続ける」という選択肢だ。選ばれたのは後者だった。

「私が代わりにセンターをやる」と言えないメンバーを、私は責めることができない。平手はまさに、欅坂における神のような存在だ。神の代わりを誰が務められるだろうか。

 

それでもなお、メンバーの中には平手依存から脱却する姿勢を見せる者が現れ始める。特に印象的なのは小池美波だ。

 

中盤、コンサート中に平手がステージから落下するという出来事が起こる。急遽、残りの曲は彼女なしで進める必要が生じた(余談だが、直後のMC中のメンバーの表情が硬いのが、こちらも見ていて辛かった)。

「二人セゾン」という歌では大サビで平手のソロダンスが入っており、当初はこのダンスを欠いた状態でのパフォーマンスをすることになっていた。これに違和感を感じたのが小池である。


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パフォーマンスの最中も迷い、悩み、その末に彼女はステージの中央に躍り出る。なんと美しいブレイクスルーの瞬間だろうか。この映画の中でも、特に見せ場となるシーンのひとつだ。

小池はその後、平手欠席の中で行われる2019年のアリーナツアーで、「二人セゾン」のセンターを任される。彼女は苦悩し、うずくまる。自分は平手のようなパフォーマンスができない。そんな彼女に寄り添うのが振付師TAKAHIROだ。小池は彼との対話を通じて、ひとつの結論に達する。

平手と対になる「セゾン」をつくりたい。

 

引用元:高橋栄樹(監督)、2020、『僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46』東宝映像事業部

平手のパフォーマンスを再現するのではない。自分自身のそれをつくり出すのだ。

 

 

2019年ツアーのシークエンスは小池をはじめとするメンバーが、自分自身の力や価値に目覚めていく様子が感じられ、観ていて心を掴まれる。自分なりのパフォーマンスを確立し、自信に目覚めていく。ここで後述の「誰がその鐘を鳴らすのか?」のインストゥルメンタルがBGMで流れるのも良い。このシークエンスにおいて、これ以上にマッチする曲は他にないと私は思う。

 

 

平手友梨奈の脱退

たったひとりのセンターからの依存から脱却するのを見届けるように、平手は脱退を発表する。この近辺で流れる平手のパフォーマンスの数々は、まさに神がかっていると言える。全体主義的圧力に抵抗する欅坂の世界観を体現する、恐ろしいまでに鬼気迫った表現力(さらに他のメンバーも、平手につられるように悲壮感をかもし出しているのがすごいと思うし、辛そうだとも思う。欅坂のパフォーマンスとは、文字通り身を削るものだったのだと思う)。

監督の高橋栄樹氏は過去にAKB48のドキュメンタリー3作目について「宗教映画のつもりだった」と語っていた。

 

今作の平手脱退のシークエンスを見ながら、私は高橋監督の言葉を思い出していた。地上に現れた平手友梨奈という神は自分の使命を終え、また天へ戻っていく――。そんな感覚を思い起こさせられたのだ。

 

 

さて、残されたメンバーたちはどうするのか?ラストは欅坂46の終焉が描かれる。彼女たちは欅坂としての活動を終わらせ、新しいグループとして再始動することを選んだのだ。

欅坂46最後のシングル「誰がその鐘を鳴らすのか?」は私が最も好きな欅坂の歌であり、同時に作詞した秋元康氏を恐ろしく思う。ここまでこのときの彼女たちが歌うのに相応しい歌があるだろうか?

歌唱力だけで考えるなら、もっと上手に歌えるアーティストはいるだろう。だが、歌唱力ではない何か。このときの彼女たちが抱えていたもの。その重さを表現し、重圧や無力感に負けないように彼女たちを鼓舞する歌のように私には感じられる。だから、この曲には凄味がある。


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今作はリーダーの菅井友香が欅坂の活動休止と新グループでの活動を発表した直後、「誰鐘」を歌うシーンで幕を閉じる。

絶対的センター平手友梨奈は去った。それでも、彼女たちは無力感と戦い、自分たちの存在価値を知った。今作を通して彼女たちの戦いを見てきた身として、これからの活躍を見守りたい。新グループ「櫻坂46」に幸あれ!

 

 

最後に

今作はコロナのため、公開が延期され、その間に欅坂が活動休止を発表。それを受け、追加シーンなどが加えられた。「誰鐘」のシーンはまさにそのひとつだ。

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コロナがなかったとしたら、平手友梨奈脱退で終了していたのだろうか?その場合だと、また違ったテーマの編集になっていたのかもしれない。今回の希望を持たせてくれたラストが大好きだが、もともとのバージョンも観てみたかったなぁと思ったりもする。

 

 

 

 

 

【12/5追記】

本文中で何度も平手友梨奈のことを「神のような存在」だと言及したが、もちろん彼女は間違いなく人間であり、自分の意志とは裏腹に信仰対象とされていくことの重圧がいかほどか、想像を絶するものがある。

たまたま、ずば抜けた表現力を持って生まれてしまった。そのために、欅坂の曲に出てくる、苦悩し続ける「僕」にシンクロしてしまった。デビュー当時の無邪気な平手から、徐々に笑顔が消えていき、孤高の存在となってしまう。

支えるメンバーたちも、どれほど苦しかったことだろうと思う。歯痒い思いなどもしたのではないだろうか?

 

 

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