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「クローズアップ現代」ジャニーズ性加害の特集を見た

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「クローズアップ現代」9/11放送分「"ジャニーズ性加害"とメディア 被害にどう向き合うのか」を視聴した。

NHK+にて、9/18(月)午後7:57まで視聴可。

 

私はいわゆる「ジャニオタ」の一人だ(これを書いている今もなおジャニオタである)。そのジャニオタとして、何かを抉られるような感覚を覚えた。

 

 

昔、『新・映像の世紀 第3集 時代は独裁者を求めた』を見た。第一次世界大戦で敗戦国となったドイツがヒトラーをリーダーとして担ぎ、第二次世界大戦へと突き進んでいった経緯やユダヤ人や政治犯の強制収容などが語られている回だ。

そこで一番印象に残っているのが、降伏後のドイツに足を踏み入れた連合軍が強制収容所で夥しい数の遺体を見たことであり、これをドイツ国民にも見せねばと決定したくだりだ。実際にドイツの人々が見学をさせられている映像が流れるのだが、あまりのショッキングな光景に口もとを押さえ涙を流している女性の表情や、顔を押さえてその場を走り去っていく女性の姿が未だに忘れられない。そこで、その場にいた従軍カメラマンの言葉が引用される。

女性は気を失い 男性は顔を背け "知らなかったんだ"という声が 人々から上がった

すると 解放された収容者たちは 怒りをあらわに こう叫んだ

いいや あなたたちは 知っていた

このくだりが、今物凄く私自身の身に刺さってきている。今の私はまさに、ショックと罪悪感で呆然としているドイツの人々そのものだ。

 

過去に戦争教育を受けている中で、「昔の人たちは、どうして戦争を良しとしたのか」「ドイツの人たちは、なぜ選挙でナチスを選んだのか」「戦争への空気を醸成していたからには、一般庶民にだって責任はある」などと思ってきたし、そのことに対して「愚かだ」とすら思ってはいなかったか。あの頃、昔の日本人やドイツ人を弾劾していた私が、今度は弾劾される側に回っている。

この事件は、後々も語り継がれるだろう。もっと後の世代の子供が歴史的事件として、ジャニーズ性加害を学ぶとき、「なぜメディアやファンは、これを良しとしていたのか」「喜多川氏の性加害の噂はかねてから流れていたのに、何も思わなかったのか」「ジャニーズを良しとする空気を醸成していたからには、一般のファンにだって責任はある」と思っても仕方ないし、私は異常な空気を醸成していた一人として、そう思われるべきなのだと思う。

 

 

「クロ現」の中で当事者へのインタビュー内容が紹介されていたが、そこでしばしば出てきたのが「それ(男性への性加害)がおかしいとされない時代だった」といった旨の言葉だ。何を馬鹿な、と思われかねない言葉ではあるが、あの時代を生きていた私自身、この言葉が理解できてしまう。元フォーリーブスの北さんの著書については知らなかったが、それでも私の身の回りでだって「ジャニーズのアイドルはジャニーさんに抱かれてるらしいよ」という噂は流れていたし、それを聞いた私は怒りに震えるどころか「それ、ありえるかも」と言って笑っていなかったか。

確かに時代だった。ようやく女性へのセクハラが問題化したばかりの頃で、男性への性加害などは顧みられてもいない時代。だが、中学生や高校生だったあの頃の私のもとへ行き、「どうして女性への性加害は駄目なのに、男性への性加害は許されるのか」と訊けば、きっと口ごもるだろう。深層ではわかっていながら、時代の空気に流され、それを「良し」としてしまっていた。時代の空気、価値観を破ることは難しい。それでも殺人や強姦など、普遍的な悪とされる事象はあるわけで、どうしてあの頃の私はそれをおかしいと思えなかったのだろう。

 

今の私は、収容所を見学しながら「知らなかったんだ」と泣き叫ぶドイツの人たちそのものだ。空気に流されて普遍的な悪を「良し」としてきた人々を見て、「自分もいつこういった人々になるかわからない」と自戒してきたつもりだった。だが、実際に彼らと同じ状況に陥るまで、どこか他人事だと思っていたのかもしれない。

せめて今は、「知らなかったんだ」と叫ぶことだけはやめようと思う。私は知っていた。知った上で、ジャニーズを良しとしていた。これを認めなければならない。