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戦メリ原作者L・ヴァン・デル・ポストの『新月の夜(The Night Of The New Moon)』を読む【2】

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※注意!The Night Of The New Moon『新月の夜』『影の獄にて』『戦場のメリークリスマス』のネタバレがあります。

 

 

※前回の記事はこちら

nhhntrdr.hatenablog.com

 

 

The Night Of The New Moon『新月の夜』感想②

引き続き、捕虜収容所内での様子が続く。前回取り上げた部分では日本兵からの虐待について書かれていたが、今回の部分では捕虜が飢えに苦しめられていたことが語られている。

 

個人的に意外だったのは「日本軍がインドネシアを占領していた期間、食糧不足というのはなかった」という記述だ。日本の占領前のインドネシアはオランダの植民地だったわけだが、この際に効率的な米の生産が可能になっていたらしい。ジャワでは1年に5回もの米の収穫があったと本文で書かれている。それでもなお日本軍は食糧を削減したため、収容所内では脚気などの病気にかかる者がほとんどだったという。

 

『新月の夜』から見えてくる『戦場のメリークリスマス』の側面②

『新月の夜』の時代は1945年であり、『戦場のメリークリスマス』は1942年なので単純に比較はできないのだが、それでも『戦メリ』でヒックスリがヨノイに対して俘虜の食事の改善を訴えるシーンを思い出してしまう。この際、ヨノイは「君らの食事は我々と同じだ」と(かなりの癇癪混じりに)切って捨てるわけだが、この際に彼が罪悪感を覚えていたりしたのかと勘ぐってみたくなる。

そもそもそれだけインドネシアで食糧が大量に収穫できたにもかかわらず、収容所の捕虜たちに行き渡らなかったのは、恐らく前線に兵站として回すためだろう。

東南アジアに軍事進攻したのは、石油や鉱物などの資源獲得が目的です。政府と軍は、資源獲得と日本軍の自活のために生じる現地住民への悪影響は我慢させ、早急な独立運動を誘発するのを避けるという方針を決めていました(大本営政府連絡会議「南方占領地行政実施要領」)。

 

引用元:日本が掲げた「大東亜共栄圏」とは|NHK戦争を伝えるミュージアム 太平洋戦争をわかりやすく|NHK戦争証言アーカイブス

無論、これを決めたのは大本営であり、ヨノイの意思はまったく介在していない。しかし、俘虜収容所の所長として、食事の削減という行為をしなければならないのはヨノイだ。

 

少し話は逸れるが、ヨノイは農村出身だったのではないかと思う。『影の獄にて』収録の「種子と蒔く者」でも、ヨノイの故郷の描写を見るに、都会から離れた自然豊かな場所だったようだ。

また、『戦メリ』においてヨノイは二・二六事件を起こした皇道派に属していたことが語られている。そもそも皇道派の青年将校たちが決起しようとした理由の一つとして、以下のものがあるらしい。

農村の指導層(地主・教師・社家・寺族・商家など)出身の青年将校の中には、幼馴染や部下の兵の実家・姉妹が零落したり「身売り」されたりするなど、農村の悲惨な実態を身近で見聞きしていた者が多かったため。

 

引用元:皇道派 - Wikipedia

こうした農村漁村の窮状に対する憂国の念が、革命的な国家社会主義者北一輝の「君側の奸」思想の影響を受けていった。

 

引用元:二・二六事件 - Wikipedia

ヨノイが皇道派に属したのも、こういった理由からではなかろうか。もしもそうであれば、もともとは貧困や飢餓に苦しむ人々のために動いていた身でありながら、今は戦局打開のために現地住民や俘虜たちを飢えに晒しているという状況は、相当後ろめたかったのではなかろうか。

ヒックスリに対してヒステリックに怒鳴ったのは彼が反抗的だからというのもあるだろうが、その裏では罪悪感を押し隠すためだったのかもしれないとも考えてしまう。

 

 

『新月の夜』の感想といいつつ、ヨノイ語りに終始してしまった。今回はこの辺で終わりたいと思う。

 

(【3】に続く)

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