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映画や本の感想など。ネタバレ全開なので、ご注意ください。

映画『ウィッシュ』感想(ネタバレあり)

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※注意!『ウィッシュ』のネタバレがあります。

 

 

 

はじめに

ディズニー100周年記念作品ということだそうだ。本編前には『ワンス・アポン・ア・スタジオ ‐100年の思い出‐』というムービーが上映された。歴代ディズニーキャラがディズニー・アニメーション・スタジオに勢ぞろいして駆け回ったり飛び回ったり合唱したりと贅沢この上ない内容。これだけでお腹いっぱい。大満足です。

 

さて、メインの『ウィッシュ』についてである。

私は『モアナと伝説の海』が大好きで、そのことについては過去に記事としてアップした。

nhhntrdr.hatenablog.com

また、感想は書いていないが『アナと雪の女王』も好きだ。どちらも印象的な「アイウォントソング」が使用されているのが特徴と言えるか。『アナ雪』なら「Let It Go」、『モアナ』なら「How Far I'll Go」である。『ウィッシュ』にもアイウォントソングにあたる「This Wish(日本語版タイトルは「ウィッシュ~この願い~」)」があり、予告を見た時点から心惹かれていた。

 

※「アイウォントソング」とは何ぞやについて知りたい方にオススメのページ

susumebway.com

 

実際に本編を見た結果、「不満はたくさんあるが、それでも好きな作品」というのが私の感想だ。以下に不満点とそれでもなお愛せた点を書いていきたいと思う。

 

不満点

ストーリーが観念的すぎる

今回の舞台はロサス王国。人々は王に願いを託しており、王が選んだ人は願いを叶えてもらえるという国であり、主人公アーシャも当初はマグニフィコ王に対して尊敬の念を抱いていたのだが、実は王は独善的な基準で誰の願いを叶えるかを決めており、中には永遠に叶えてもらえない人もいると知る。ならば願いを返してやるべきだ(何しろ王に願いを捧げると、本人は願いの内容を忘れてしまうのだ)とアーシャは抗議するが、王は聞き入れてくれない。アーシャには100歳になる祖父がおり、ずっと願いを叶えてもらえずにここまで来てしまった。アーシャは祖父と母の願いを取り戻そうとマグニフィコ王に立ち向かっていく。

 

…という内容なのだが、「願い」という題材が少々抽象的すぎたような気がする。冒頭で「願いとはその人の心やあり方そのもの」みたいなナレーションがあったのだが、本編中の描写を見るに、いわゆる「将来の夢」的なもののようである。夢が叶わない人なんてごまんといるしなぁ、などと序盤の時点で首を傾げてしまった。つまり願いを取り上げられるのは悲しいことではあるのだが、あまり切迫感を感じないのだ。

 

例えば『ゴジラ-1.0』だと主人公・敷島には「罪悪感から来る生きることへの無力感」という内的問題がある。その問題を敷島は克服していくわけだが、物語的にはそれがメインなのではなく、「ゴジラが日本を襲いにやって来る」という外的問題が存在しているわけだ。どう考えても敗戦直後の日本にゴジラを倒すだけの余力はない、それでも倒さなければ人々に被害が及んでしまう。そんな緊張感のある状況の中、敷島は苦しみ、足掻き、結果的に内的な問題とも向き合っていくことになる。

nhhntrdr.hatenablog.com

 

一方、『ウィッシュ』では人々が「願い」を失っているという問題はあるが、とはいえ誰かが死の危険にさらされるようなことはない。後にマグニフィコ王は理想的な王の仮面を剥ぎ捨て人々に牙を剥くようになるが、そのときに行うのは「願い」が具現化した玉のようなものを破壊すること。願いを破壊されると願いの主にも影響が及ぶのだが、といっても「心に悲しみが宿る」という程度である。中盤でアーシャの母の願いが破壊されるのだが、それでも彼女は呪いによって余命が縮まる等の危機にさらされることはない。例えば『アナ雪』だと、中盤でアナが「このまま放置していると、心まで凍りついてしまう」というような状況に追い込まれるわけだ。その後ストーリーが進むにつれてアナは衰弱していくので、見ているこちらは彼女が心配でハラハラしてしまう。そういったハラハラ感がなかったのだ。何というか、「願い」という観念的なものとは別にわかりやすい外的問題があると良かったかなぁなんて思ってしまった。

 

「マグニフィコ王、最恐じゃなくね?」問題

今回のヴィラン・マグニフィコ王は事前情報で「ディズニー最恐のヴィラン」と言われていた*1のだが、実際に見てみると「別に最恐じゃなくね?」と思ってしまった。先述の通り、作中で誰かが命の危機にさらされることはないし、願いを破壊されて廃人になるようなこともない。つまり、そこまでマグニフィコ王は残酷なことをしていないのだ。いや、確かに人々の願いを管理して、叶えるべきかどうかを勝手に判断するのは良くない。独善的で自分勝手だ。だが、過去のディズニーヴィランズが結構主人公たちに容赦なく殺しにかかっていたことを考えると、マグニフィコ王ってそこまで怖くないよな、と思ってしまうわけである。『白雪姫』の女王とか『眠れる森の美女』のマレフィセントなんて「普遍的な悪ここにあり!」って感じだったじゃないですか。実際、彼女たちは普段から冷たい雰囲気をまとっていて、取りつく島もない。こいつを殺さねば、こちらがやられてしまう的な存在感を放っていた。

 

一方でマグニフィコ王である。ぶっちゃけ、彼はキュートだ。見た目はイケメンで国で唯一の魔法使いという存在なのだが、実際は器が小さく、ナルシシストで、それでいてどこか憎めない。リドリー・スコット監督の『ナポレオン』のナポレオンがやっぱり「この人威厳はないし、ヘタレだし、格好つけようとしてカッコつかないし、どーしょーもないなー。ま、そこがキュートなんだけどさ」って感じのキャラクターなのだが、マグニフィコ王を見ていて、このナポレオンを思い出していた。

公式がマグニフィコ王の歌唱シーンをYouTubeで公開しているのだが、ぜひ見てほしい。

「ウィッシュ」本編映像「無礼者たちへ」Performed by 福山雅治|12月15日(金)劇場公開! - YouTube

仕草のひとつひとつが何だか可笑しい。怖いというより、むしろ親しみさえ感じてしまう。その上、彼は人を殺そうとしないし、傷をつけようともしない。というわけで「こいつを殺さないと、この世はおしまいだ!」感がなかった。何だったら『トイ・ストーリー』のシドの方が怖いと思う。

逆に言うと、親しみを感じる方向での魅力があるキャラだったわけである。

 

それでもなお、私は『ウィッシュ』が好きだ!

絵本のような世界

『ウィッシュ』の背景はアナログチックなテイストで、絵本を見ているかのようだ。そんな世界をアーシャたちが動き回っている様を見ているのは、本当に楽しかった。とにかくこの世界を眺めていたい。ひとつひとつを切り出して、絵画として飾っておきたい。そんな風に感じる映像だった。この映像をみるだけでも映画館に行く価値はあると思う。

 

歌が良い!

予告で散々聞いていた「ウィッシュ~この願い~」だが、それでも本編中に聞くと鳥肌が立った。私は吹き替えで鑑賞したのだが、生田絵梨花さんの歌唱力のすごいことすごいこと。正直、このシーンに差し掛かるまでに上記のような理由で少々気持ちが冷めていたのだが、それでもこの歌が流れた瞬間にブワッと泣かされてしまった。冷めた心を殴り倒してくる楽曲と超絶歌唱力。ちなみにこのシーンで、隣の席からも鼻を啜る音が聞こえてきた。

「ウィッシュ」ミュージッククリップ「ウィッシュ~この願い~」Performed by 生田絵梨花 - YouTube

 

さらに、私はこういったミュージカル映画におけるリプライズが好きだ。『モアナ』だと「How Far I'll Go」が最初に流れるとき、モアナは「旅に出たいけれど、それがなぜなのかわからない。居心地の良い故郷を離れたいなんて、自分はどうしてしまったのだろうか」という迷いを抱いており、曲にもその戸惑いが滲んでいる。だが、いざ旅に出ることになって流れるリプライズは「迷いはあるけど、それでも私は行く!」という決意が表れているのだ。同じ楽曲でも、その時の状況で意味合いが変わってくる。これが熱い。

『ウィッシュ』でもクライマックスで「ウィッシュ~この願い~」のリプライズが流れる。マグニフィコ王に追い詰められたアーシャが、自分を奮い立たせるように歌を歌う。それでも負けそうになったその瞬間、彼女の仲間たちが一緒に歌い出すのだ。さらに、その想いはその場にいる他の人々にも波及していく。アーシャの独唱から、人々の大合唱へと変わっていく…。まるでドラゴンボールの孫悟空に元気を分け与える人々のようじゃないですか!元気玉だ!この描写で心が熱くならないわけがない。前半部分でひとり孤独に歌われた「ウィッシュ~この願い~」が、クライマックスで人々の想いと共に歌われる。いやー、もうここで泣かされた、泣かされた。ついでに隣の人も鼻を啜り続けていた。

 

とはいえ、ストーリーの屋台骨が歪んでいたり、バッキバキに壊れていたりしていると、少々よさげなシーンを持ってきたところで別に泣けたりはしない。「どうでもいいキャラクターたちが、勝手に盛り上がってんなぁ」と思わされるだけだ。不満を抱く点はあったものの、結局きちんとクライマックスでアーシャたちの姿に心熱くなり、泣かされてしまったのだから、結果的には満足満足。良い映画体験だった。

個人的には先に述べたように憎めないヴィランだったマグニフィコ王の末路が残念と言えば残念だった。あれ、最終的にはまた戻ってきて王妃改め女王様の尻に敷かれてトホホな旦那さんとしてやっていくっていうのじゃ駄目でしたかね?いや、そうなると「あの作品」に繋がる仕掛けがなくなっちゃうわけなんだけど、それでもあのいまいちカッコつかず憎めないマグニフィコ王には、ロサス王国に戻ってきてもらいたかったなぁ…。

 

最後に

そういうわけでストーリーには不満たらたらなのだが、上映終了後に映画館を出たとき「良かった!すんごい良かった!」と思ったわけである。この記事は「ウィッシュ~この願い~」とリプライズ版をヘビロテしながら書いている。当初は一回見れば十分かと思っていたのだが、字幕版も見たくなってきましたよ!

 

 

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